無職転生 - 異世界行ったら本気だす -

第百四十話「両手に花」

 結婚式から二週間後。

 俺はシルフィとロキシーを連れて、町に出ることにした。

 ノルンとアイシャの誕生日プレゼントを購入するのだ。

 

 パーティはサプライズにする事にした。

 こっそり準備して、妹二人を驚かせるのだ。

 

 わざわざ三人で出てきたのには別の理由もあるが、ひとまず置いておこう。

 

 

---

 

 

 広場までやってきた。

 

 最近は収穫期という事もあってか、町中はずいぶんと賑わっている。

 馬車が行き交い、人々が笑顔で野菜や果物を売っている。

 この時期は食料品が安く、新鮮でうまい。

 

 広場の中央では、櫓のようなものが組まれている。

 

 もうじき収穫祭だ。

 祭りといっても、広場にてキャンプファイヤーをしつつ、収穫物のごった煮が作られ、酒と一緒に振る舞われるだけだ。

 それ以外に特にイベントがあるわけではない。

 火を囲み、大地の恵みに感謝しつつ、飯を食うだけ。

 歌を歌ったり、躍ったりもしない。

 ちなみにごった煮は鍋をもって訪れればタダでもらえるらしい。

 去年、俺がいない時期にアイシャがもらってきたのだとか。

 なんでもかんでも、入れるからあんまり美味しくない、と言っていた。

 今年は食えるだろうか。

 まずいならまずいで興味がある。

 

「相変わらず、この時期は賑やかですね」

「そうだね、この時期はいろんな人が来るからね」

 

 ロキシーが物珍しげに周囲を見回し、シルフィが答える。

 

 商人が行きかい、学生が興味深そうに露天を覗き、

 農家が大きな手押し車に一杯の野菜を積んで通り過ぎ、

 冒険者が、肩が触れた触れないので喧嘩をする。

 これほど喧騒に包まれた魔法都市シャリーアはこの時期だけだ。

 

 広場にはやけに獣族の姿を見かける。

 鉈のような剣をもった、屈強な獣族だ。

 こっちも祭りだ。

 

 ちょうどこの時期、リニアとプルセナの発情期が重なるらしく、各地から我こそはと思う勇者たちが魔法大学目指して集結している。

 リニアとプルセナも、そろそろ婿を手に入れるつもりだそうで、今年は彼らと真正面から戦うそうだ。

 ただ、古式には則らず、自分たちに勝った相手から選ぶと公言していた。

 

 剣術は聖級以上、魔術は上級以上、冒険者ならA級未満は認めない、毛並みがよく、荒々しくも紳士的で、耳と尻尾がピンと立った男がいい。

 なんて言ってたが、さすがに高望みしすぎだと思う。

 

 まあ、せいぜいいい相手を見つけて欲しいと思う。

 俺みたいにな。

 

「……」

 

 左右を見る。

 

 右にシルフィ。

 左にロキシー。

 まさに両手に花である。

 

「なあ、シルフィエットさんに、ロキシーさんや」

「なにかな、ルーデウスさんや」

「なんでしょう」

 

「腕を組みませんか?」

 

 唐突に思いついた提案である。

 男なら誰しも、一度ぐらいは夢に見るだろう。

 両側に女性を従えてモテモテ感を演出するというのは。

 

 かつて、俺もそんな男を見て、唾を吐く側だった。

 しかし、その心の奥底では憧れていた。

 やってみたいと思っていたのだ。

 

「うん」

「……はい」

 

 右側からシルフィがスッと。

 左側からロキシーがおずおずと、腕を組んでくる。

 

 おお、これで俺も羨望の眼差しにさらされる復活のキリストだ。

 なんと心地よい羨望の眼差しか!

 

 なんてな。

 思ったより、他人は俺の事など見ていないようだ。

 商人は忙しそうで、獣族の戦士たちは足早に魔法大学へと急いでいる。

 学生はこちらを見ているが、すぐに視線を逸らす。

 冒険者も、酒場ならまだしも、往来でヤジを飛ばすほど暇ではないようだ。

 

 だが、俺の心は満たされた。

 例えばこれ。

 特に、右腕に当たるこの感触。

 かつてのシルフィでは感じられなかった、あれとこれの感触。

 あれとこれなんて他人行儀な言い方をするもんじゃないな。

 乙(おつ)と丙(ぱい)だ。

 

 この俺が、女に胸を当ててもらって歩いている。

 そんな単純な事が俺の心は満たすのだ。

 前世で乾ききった青春砂漠を生き抜いた俺の心を、潤すのだ。

 

 このオアシスも、もう少しすればエリナリーゼと双璧をなすミニマムサイズに戻ってしまうのだろう。

 つまり、この二つは幻の島。

 宝島は本当にあったんだ。

 

 もちろんシルフィだけではない。

 左側のロキシーも、貧しいものをしっかりと押し付けてくれている。

 だが、決して無いわけではない。

 俺の鍛えられた腕に、ロキシーの柔らかい部分が当たっているのを感じる。

 

 ああ、素晴らしい。

 鍛えた筋肉に感謝だ。

 この硬さがなければ、この柔らかさの感動は半減だったろう。

 おお、嫉妬するな我が上腕二頭筋よ。

 お前は素晴らしい。

 

「……くふふ」

 

 思わず笑いが漏れてしまう。

 

 今日は妹二人のプレゼント選びという名目で出てきた。

 しかし、それだけではない。

 先日、エリナリーゼが言ったのだ。

 

『根回しはしっかりしておきましたわ。

 三人でお出かけしてムードを高めてから、

 雰囲気のいい宿でキメなさい』

 

 つまり、そういう事である。

 今日、俺はやる。

 二人を一つのベッドで同時にいただくのだ。

 ああ、楽しみだ。

 ちゃんと二人共満足させられるだろうか。

 ああ、楽しみだ。

 

「ルディ、ルディ?」

 

 シルフィに呼ばれて我に帰る。

 

「よだれが出ていますよ、もうお腹がすいたんですか?」

 

 ロキシーがハンカチで俺の口元を拭いてくれた。

 いかんいかん。

 妄想しすぎてしまった。

 

 もちろん。

 最終的にはそういう流れを期待している。

 けれど、経過のデートを蔑ろにするつもりはない。

 ノルンとアイシャへのプレゼントもきちんと選ぶ。

 二人には、デートを楽しんでもらうのだ。

 

「失礼、ちょっと口元が緩んだようです」

 

 謝りつつ、気を引き締めた。

 

 

---

 

 

 プレゼント選びは丸一日掛け、街中を回ることにしてみた。

 

 まずは工房街からだ。

 工房街には、数多くの魔道具が置いてある。

 

 無論、商業街の方にも魔道具は売っている。

 しかし、そっちは実用化に耐えうる便利で高価なものがほとんどだ。

 

 工房街では未熟な魔道具製作師(クリエイター)見習いの、試作品のようなものも置いている。

 効果のほどは大した事はなく、どれもオモチャみたいなものだ。

 けれど、後に天才と呼ばれるような者の作った掘り出し物もあるらしい。

 

 というのは、ロキシーの談である。

 なんでもロキシーの同級生には、工房に弟子入りした者がいるらしい。

 あいにくと、もう別の町に行ってしまったそうだが。

 

「あの二人が好みそうなものがここらにあるとは思えませんが」

 

 ロキシーはそう言いつつも、興味深そうに魔道具を物色していた。

 

 もちろん、ここらにアイシャ・ノルンの好きそうなものがあるとは思っていない。

 ここに来たのは、ロキシー用のプレゼントを購入するためだ。

 

 ロキシーも結婚したとはいえ、そのお祝いはしていない。

 結婚式は必要ないと言っていたが、それとお祝いをしないのは別だ。

 ノルンとアイシャの誕生日の時に、一緒に祝おうと思っている。

 

 もちろんロキシーはその事を知らない。

 こっちもサプライズだ。

 サプライズをする者がサプライズされるって寸法だ。

 

 もし、ここでロキシーが「これ欲しいな」と思うようなものがあったら、明日にでもこっそり購入しておくつもりである。

 便利な魔道具となると、きっとお値段も相応のものだろう。

 現在、我が家を支えているのは、シルフィとロキシーの収入、ナナホシから貰ったスクロールの印税、迷宮探索の報酬の4種類だ。

 特に最後の、パウロの遺産とも言うべき迷宮探索の報酬は、あと三十年は遊んで暮らせるぐらいの金額となっている。

 腐るほど、とまではいかないが、余裕がある。

 とはいえ、いつどこで何に大金を使うかわからない。

 ゆえに普段からあまり贅沢はしないようにと心がけている。

 

 しかし、結婚記念ぐらいはいいだろう。

 ロキシーが「ポルシェに乗りたいです。カイエンに」とか言い出しても買ってあげよう。

 最近のロキシーはアルマジロを乗り回しているようだし、乗り物は必要無いだろうが。

 

「この魔力を込めると中のものが凍りつく鍋は、アイシャにいいかもしれませんね」

「アイシャちゃんはもっと可愛いものが好きだと思うよ」

「あっ、確かに、仕事とは別のものの方がいいでしょうね……」

 

 シルフィとロキシーが話している間、俺はロキシーの動向を見守る。

 今のところ、特に何かを欲しそうにはしていない。

 真剣にノルンとアイシャのプレゼントを選んでいる。

 自分の事など考えていないようだ。

 

「ルディはどう思いますか?」

「そうですね。ロキシーをペロペロしたいです」

「真面目に考えてください。ルディが言い出した事なんですからね」

 

 もちろん、アイシャとノルン用のプレゼントも考えている。

 しかし、ここにある品は二人には合わないだろう。

 

 

---

 

 

 商業街へと移動する。

 向かう先は、シルフィの行きつけの服飾店だ。

 俺のローブを購入した店である。

 一応、この店がプレゼントの本命であった。

 

「ずいぶんと高級な店に入るのですね」

 

 店構えを見て、ロキシーが気後れしていた。

 自分のローブを見下ろして、不安そうな顔をしている。

 店にドレスコードが必要ないと教えてやるべきか。

 

「えっ、そんなに高級かな?」

 

 シルフィは首をかしげていた。

 彼女は服飾関係に関しては、ややお高い店しか使わない。

 と言っても、浪費癖があるわけではない。

 アリエルと行動を共にする事が多いからだろう。

 出入りする店というのは知り合いの影響を受けやすいものだ。

 

 シルフィの金銭感覚が崩壊しているわけではあるまい。

 自分の行く範囲で一番妥当な店、という認識があるだけだ。

 

 そういうもんだ。

 人は誰しも、自分が高級品を手にしているとは思わないものだ。

 

「いえ、グレイラット家の経済状況なら問題は無いでしょう。ただ、わたしは普段、あまりこのランクの店には出入りしませんので、そう思っただけです」

「そ、そっか……高いか……」

 

 シルフィはションボリしていた。

 耳が力なく垂れ下がっている。

 

「ねぇルディ。ボク、お金使いすぎてたりしないよね?」

「もちろん、大丈夫さ」

 

 基本的に、シルフィの私服類はシルフィの給料から支払われている。

 自分で稼いだ金を自分で使っているのだ。

 俺がどうこう言う問題じゃない。

 

「決してシルフィが浪費家だと言いたいわけではありません。わたしも宮廷魔術師だった頃はこうしたお店を利用しましたし。誕生プレゼントとしての服を選ぶなら妥当でしょう」

「そっか、そうだよね、誕生日プレゼントならね……うん……」

 

 ロキシーが追い打ちを掛ける。

 さすが我が師匠だ。

 攻めるべき時をわかっている。

 まあ、フォローのつもりなのだろうけど。

 俺もフォローしとくか。

 

「服ぐらい高いの着てもいいと思うけどな」

 

 そう言うと、シルフィがむくれた。

 

「やっぱりルディも高いって思ってたんじゃないか」

「センスがいいとは思ってたよ」

「どうしよう。今からでもお店を変えた方がいいかなぁ……。でも、ボクここ以外だと、高いお店しか知らないんだよね」

「必要ないさ。ここで買えばいいよ」

 

 元々、シルフィは私服類をほとんど持っていなかった。

 それを、俺のために着飾ってくれるのだ。

 お礼を言う事はあっても、文句を言う筋合いはない。

 

 確かに、俺の基準で言えば、服の値段としてはちょっと高いかなとは思う。

 だが、それはあくまで俺が冒険者基準の安い服を常用していたからに過ぎない。

 

 なぁに、高いのを標準だと思っているなら、それを享受しておけばいいのだ。

 金があるうちはね。

 

「これはこれはグレイラット様! ようこそおいでくださいました!」

 

 店内へと入ると、すぐに店員がよってきた。

 常連だからか、きちんと名前を覚えてもらっている。 

 

「本日はどのようなご用向きで?」

「10歳ぐらいの子の誕生日プレゼントの物色さ」

「なるほど、でしたらこちらへどうぞ!」

 

 そう言うと、店員は子供服のある場所へと案内してくれた。

 よく訓練されているな。

 

 案内された先には、子供サイズの服がずらりと並んでいた。

 普段着から、ローブ、ドレスに至るまで。

 品揃えは豊富だ。

 十歳の誕生日に服を買うケースは多いのだろう。

 

「これだけ種類があると目移りしますね」

「もうじき冬になるから、あったかそうなのがいいかなぁ」

 

 ロキシーとシルフィは、大量の服を前に、嬉しそうに会話をしていた。

 やはり女の子という事か。

 なんでもいいわと断言するどこかの赤毛とは違うという事だ。

 

「ねぇ、ルディはどう思う?」

「ノルンの防寒具も最近小さくなってるし。新しいのが欲しいんじゃないかな?」

 

 

 シルフィに聞かれ、俺も自分の意見を述べる。

 二人はなるほどと頷いた。

 

「じゃあ、コートがいいかな……アイシャちゃんはどうしよう」

「そういえば先日、靴が小さくなってきた、と言ってました」

「靴か。いいね。それでいこうか」

 

 そんな会話で方向性を決めた後、品物を物色する。

 さすがに品数は豊富で、二人に合いそうなものはすぐに見つかった。

 ノルンには明るい色のコート、アイシャには花の模様が縫い込まれたブーツを購入する事になった。

 両方とも、やや大きめのサイズだが、育ち盛りだし、問題は無いだろう。

 

 その後、店内を適当に見て回る。

 何も、プレゼントが一つである必要はない。

 というのも、嘘偽りのない本音である。

 だが、本命はロキシーへのプレゼント探しである。

 

「布製のコサージュなんかは、アイシャが喜ぶんじゃないかな?」

「そうだね、花とか好きみたいだし」

「いやでも、ちょっと大人っぽすぎるかな?」

「そういえば、ノルンちゃんって、何が好きなんだろう」

「ノルンは……なんだろう、彼女が何かを好きだって言う場面はあまり見たことがないな……」

「ノルンさんは、鎧とか剣とか馬とか、男の子っぽいものを好んでいるようですね」

「へぇ、なんで知ってるんですか?」

「わたしも、彼女とは仲良くなりたいんです」

 

 なんて会話をしつつ見て回る。

 

「……」

 

 ふと、ロキシーが立ち止まっていた。

 

 彼女はローブを見ていた。

 目立つようにディスプレイされている魔術師用のローブと帽子だ。

 成人男性用のサイズで、当然ながらロキシーには合わないだろう。

 

 彼女はローブの上においてある帽子を見て、自分のかぶっている帽子を脱いだ。

 

 そして、難しい顔で自分の帽子を見る。

 あの帽子もかなり古いものだ。

 ブエナ村にいた頃からずっと使っているものじゃないだろうか。

 ボロボロというほどではないが、歴戦を思わせるほつれが見える。

 黒い帽子なのであまり目立たないが。

 

 ロキシーは帽子をかぶり直すと、そろそろと背伸びをして、売り物の帽子を手に取る。

 くるくると回して見て、値札を発見してウッと顔を顰める。

 即座に元あった場所に戻した。

 高かったらしい。

 

「はぁ……」

 

 ため息をついてロキシーは何事もなかったかのようにこちらに向かってきた。

 

「ねぇ、ルディ」

 

 ふと気づくと、シルフィが隣に立っていた。

 

「あれにしよう」

「うん」

 

 シルフィと意見が一致した。

 これでロキシーへのプレゼントは決定だ。

 

 その後、コートとブーツ、そしてこっそり帽子を注文して、店を出た。

 品物を受け取るのは、誕生日パーティ当日だ。

 ちゃんとプレゼント用の包装をしてくれるらしい。

 当日が楽しみである。

 

 

---

 

 

 最後に、冒険者の集まる宿場街へとやってくる。

 あちこち回ったため、時刻はすでに夕刻である。

 

 この時刻になると、迷宮探索を終えた冒険者たちが戦利品を手に戻ってくる。

 また、金に困った冒険者が金策に手持ちの品を売るのも、この時間帯だ。

 ゆえに、掘り出し物もある。

 もっとも魔力付与品(マジックアイテム)は高価だし、ぶっちゃけ必要ない。

 ウィンドウショッピングというものは見て楽しむものだ。

 と、思っていたのだが。

 

「ほらシルフィ。これが冒険者の服だ。一般的な人々はこれぐらいの服を買うんだよぉ」

「もう。わかってるよ。でも、こういう服ってあんまり着ないから、自分に似合うかどうかもわからないんだよね」

「シルフィならこういうのがいいと思います。スレンダーなので、マントも似合いますね」

 

 話をするうちに、なぜかシルフィの服装を一式そろえてしまった。

 魔法剣士風の服装で、肘にプロテクターなんかが付いている。

 優雅さには欠けるかもしれないが、駆け出しの冒険者のようで実に可愛い。

 これでいつでもシルフィは冒険者になれる。

 F級冒険者に!

 

 まぁ、仕事もあるし、冒険者になる理由もない。

 何かあったとしても、シルフィの仕事着はほとんど魔力付与品(マジックアイテム)だ。

 わざわざ着る機会は無いかもしれない。

 

「えへへ、二人共、ありがとう」

 

 しかし、シルフィは嬉しそうにしていた。

 

 

 そうしてショッピングをしている内に、段々と店も閉まっていく。

 行商とて、夜遅くまで商売をしているわけではない。

 よって、必然的に俺たちの足も、自然と食事処へと向かう。

 もちろん。

 自然と思っていたのはシルフィとロキシーだけだろう。

 

 全て算段通りだ。

 こんな事もあろうかと、俺は店を予約しておいたのだ。

 

 S級冒険者向けの宿。

 エリナリーゼに『デートのフィニッシュはこの店』とアドバイスを受けていた店である。

 食事が美味しく、雰囲気も良く、ベッドも大きく、音も漏れない。

 そんな店である。

 

「あ、このお店、おばあちゃんに教えてもらったよ。ルディと喧嘩したらここで仲直りしなさいって」

「おや、シルフィもですか?」

 

 だが、二人はこの宿のことを知っていた。

 所詮、俺達はエリナリーゼの手のひらで踊らされる仔羊でしかないのだ。

 もっとも、三人とも知っていたからといって、大した事はない。

 

「わたしもエリナリーゼさんから聞きました。もしかすると、今後ルディがシルフィとわたし、二人を連れて、この宿に来る時があるかもしれない、と。その時は、その、つまり……」

「ボクも言われたよ……なるほどねぇ」

「ルディはエッチですね」

 

 シルフィとロキシーはジトっとした目で俺を見てきた。

 だが、その顔に嫌悪感はない。

 エリナリーゼの根回しはすでに完了しているのだ。

 だから、二人も俺の下心に好意的なのだ。

 エリナリーゼさんのおかげで。

 いや、エリナリーゼ様のおかげで!

 

「でも、今日は泊まるって言ってないから、ルーシーが心配だね」

 

 ふとシルフィは、思い出したかのようにルーシーの事を口にした。

 だが、そっちの根回しも完璧だ。

 

「大丈夫、ちゃんとリーリャさんに頼んできたから」

 

 今晩キメてくるというと、リーリャは「お任せください」と頷いてくれた。

 

「頼んだって……まあ、リーリャさんなら安心して任せられるけどね」

 

 根回しが済んでいたとしても、両親ともに外泊なんて、いけない事だと、シルフィは言いたいのだろう。

 俺もわかっている。

 けど、うん。

 ……言い訳はすまい。

 すまんルーシー。愛してる。

 欲望に弱い父親を許してくれ。

 

「わたし、明日も学校なのですが」

 

 ロキシーは明日の出勤の心配をするが、そっちも問題ない。

 

「早めに起きて家に一度戻れば大丈夫だろう」

「早めに起きれるんでしょうか。わたし、アレの後は早起きできる自信ありませんが」

「任せてくれ」

「まあ、ルディがそう言うなら、任せますけど……」

 

 やや強引になったが、今日の外泊は決定した。

 

「じゃあ、旦那様。今晩はよろしくおねがいしますね」

「お願いします」

 

 二人の可愛らしい妻に頭を下げられて、俺も戦闘準備オッケーだ。

 

 

---

 

 

 だが、いきなりベッドインではあんまりである。

 

 なのでまずは、宿1階の酒場で食事を取る事にする。

 ここは食事のうまい店でもあるからな。

 食事を食べて、お酒を飲んで、愛しているとささやいて。

 そういったムード作りが大事だ。

 彼女らに向ける俺の感情は、決して性欲だけで無いのだ。

 性欲がものすごく強い事は隠しようもない事実だが、純粋に俺と一緒にいる時間を、楽しんでもらいたいと思っているのだ。

 

「わぁ、なんか凄いね」

「こうした食事は中々取れませんね……」

 

 テーブルに並べられた料理を見て、二人は感嘆の声を上げた。

 

 北方大地は食材が高価で、量も取れない。

 ゆえに、普段の食事は質素である。

 だが、現在は食材の豊富な季節で、さらにここは高級な店である。

 

 新鮮な野菜を豊富に使ったサラダ。

 煮込んだ川魚の入った辛めのスープ。

 香辛料たっぷり、脂の乗ったブラックブルのステーキ。

 普段あまり食べられないような、料理ばかりである。

 それらに加え、芳醇な香りを放つウイスキーに似た酒がついてくる。

 

「このスープ美味しいね。どうやって味つけしてるんだろう」

「オイルに漬けた辛子とか使ってるんじゃないかな……?」

 

 シルフィはルーシーの事を考えてか、酒は飲まない。

 しかし、スープに興味を持ったらしく、何度も味を確かめていた。

 

「ちょっと調べてみようかな。ルディ、ボクが作ったら、食べてくれる?」

 

 小首をかしげるシルフィ。

 作ったら、などと言わず、今すぐ食べてしまいたい。

 

「ああ、シルフィごと頂きます」

「もう、ルディったら」

 

 最後はデザートだ。

 なんとこの店では、デザートを出しているのだ。

 といっても、ミリス神聖国で食べた、手間のかかったものとは少々違う。

 

 メインは林檎のような果実だ。

 俺も食べた事があるが、前世の林檎よりもずっと酸味が強い。

 それを一口大に切り、とろみのある蜂蜜に似たシロップに漬けてある。

 

 味としては、砂糖漬けか、あるいはフルーツポンチに似ているだろうか。

 中々に美味だ。

 林檎と蜂蜜を組み合わせるとカレーになると思っていたのだが、どうやら勘違いだったようだな。

 

「これは……!」

 

 そんなデザートに喜んだのは、ロキシーだ。

 彼女は目を輝かせながら、パクパクと口に入れていく。

 我が師は甘いものが好きだったのだっけか。

 それとも、種族的に甘いものが好きなのだっけか。

 

「すごい。北の方でもこんなものが食べられるなんて!」

 

 言葉少なだが、その顔にあったのは感動だ。

 ロキシーの口から光を放っているかのような錯覚すら見える。

 そのまま見てたら、味の宝石箱がどうのとか語り出しそうだった。

 

「あっ……」

 

 あっという間に食べ終わってしまい、空になった器を残念そうに見つめていた。

 

「俺の分もあげるよ」

 

 そういって皿を突き出すと、ロキシーが驚愕の表情を浮かべた。

 

「えっ、いいんですか!?」

 

 一番おいしそうに食べる人に食べてもらうのが一番だ。

 

「もちろんですとも。はい、あーんして」

「あーんって、子供じゃないんですから……あーん」

 

 ロキシーは一口食べる度に感動し、頬に手をあてて幸せそうな顔をしていた。

 もっと食べさせたい所だが、残念ながら俺の分も無くなってしまった。

 他は次回だな。

 

 さてと、お腹もくちくなった。

 甘いものをたくさん食べた二人の美少女は、さぞかし甘くなっているだろう。

 

「さてと、二人とも」

「なにルディ」

「なんでしょうか」

 

「実は、部屋を取ってあるんだ……」

 

 人生で一度は言ってみたかったセリフである。

 

「……うん。えっと、ロキシー、改めて聞くけど……ボクと一緒で大丈夫だよね?」

「はい。よろしくお願いします」

 

 ロキシーとシルフィは顔を見あわせ、互いに頷きあった。

 

 

 俺はロビーで鍵を受け取り、二人を促して部屋へとはいる。

 入り口にはハンガーが置かれ、床は毛の長い絨毯で覆われている。

 部屋の奥には五人ぐらい寝転がっても大丈夫なぐらいの、柔らかそうな大きなベッドが備えられていた。

 

 窓の外はすでに真っ暗だ。

 カーテンを締め、予め用意されていたロウソクに火を灯す。

 すると、薄暗い部屋に二人の美少女の姿が浮かび上がった。

 

「……」

「……」

 

 二人は顔を赤らめつつ、ゆっくりと上着を脱いだ。

 

 

 俺はそれを見つつ、今夜は最高の一夜になると確信するのであった。

学校の噂 その8

「番長はお金持ち」