無職転生 - 異世界行ったら本気だす -

第百四十三話「第四段階」

 卒業式から数日後。

 

 俺の目の前に、大きな魔法陣がある。

 一見すると、それは石版に見える。

 両面にビッシリと魔法陣の書かれたA2サイズぐらいの紙を、何枚も重ねあわせた魔法陣だ。

 100枚以上はあるだろう。

 

 縁は木の額縁で覆われ、額縁にも魔法陣が組み込まれている。

 もはや、一種の魔道具だ。

 これを作るのには、さすがにかなりの時間を要した。

 俺も手伝ったが、大半はナナホシが一人で作り上げた。

 

「では、はじめて頂戴」

 

 魔法陣の向こう側で、ナナホシが言った。

 彼女の両隣にクリフ、ザノバの姿もある。

 

 彼らもこの研究には手を貸している。

 なので、段階が進む時点では、同席するように言ってある。

 ナナホシは嫌がったが、それが権利だというと、一応ながら納得した。

 

 というのは建前で、また失敗してナナホシが暴れたら押さえつける係だ。

 ついでに慰める係だ。

 異性に慰められるというのは、なんだかんだ効果的だ。

 男と女では違うかもしれないが、少なくとも俺はそうだった。

 だから、せいぜいチヤホヤしてやろう。

 どっかの酒場で、ドンペリはいりまーすとかやってやろう。

 クリフとザノバと、三人で。

 

 もっとも、今回は自信がある。

 設計図の時点でクリフも太鼓判を押していたし、

 『ザリフの義手』を使用したおかげで、ザノバの技術力も上がっている。

 失敗は無い……はずだ。

 

 よし。

 

「魔力注入を開始します」

 

 俺は魔法陣の端に手を置いた。

 

「……」

 

 魔力を込める。

 すると、ズルズルと引きずられるように魔力が吸い取られていく。

 

 さすがに、凄い消費量だ。

 俺以外だと誰も使えないんじゃないだろうか。

 

 考えてみれば当然か。

 かつて、シルフィはこの魔法陣一つ使うのに、上級魔術レベルの魔力を使うと言っていた。

 それが100枚だ。

 クリフの協力で消費魔力は多少抑えられているから、100倍って事は無いだろうが、10倍、20倍はゆうに超えているだろう。

 

「時間が掛かるな。その辺も改良した方が……」

「しっ」

 

 クリフのぼやきを、ナナホシが黙らせる。

 

 俺の心臓から血液が流れるように魔力が出て行く。

 魔力に反応し、魔法陣がぼんやりと光を放つ。

 

 違和感は無い。

 魔力の通りはいい。

 複雑に描かれた魔法陣の光。

 光の色が変わっていく。

 黄、赤、青、白……。

 既視感のある色で光る魔法陣。

 この光り方は見たことがある。

 

 転移事件の直前。

 あの時も、こんな光が出ていた。

 

 どうする、やめるか。

 また転移事件が起こったらザノバとクリフを巻き込む。

 いや、もっと大きな範囲で起きたら。

 今日は学校にシルフィやノルンもいる。

 いや、学校だけですまないかもしれない、町を、ルーシーを、まるごと……。

 

 だが、何かが起こりそうな気配は無い。

 そもそも、俺達の作った魔法陣に、そんな機能は無い。

 そうならないように、これまで理論を積み重ねてきたのだ。

 いける。

 大丈夫、いける。

 

「……!」

 

 その光がどんどん強まっていく。

 そして、飛び散った光が一点に収束するように動き。

 

 ゴトン。

 

 小さな音がした。

 急に魔力が通らなくなった。

 魔法陣の発光が、収まった。

 

「……」

 

 魔法陣の中心。

 そこには、一つの緑があった。

 綺麗な球状の、緑と黒だ。

 みずみずしく、地球のように豊富な水分を蓄えた、緑と黒の縞模様。

 

 スイカだ。

 

「成功だ」

 

「やっっった!」

 

 ナナホシが勢い良く立ち上がり、ガッツポーズ。

 

「おめでとうございます師匠!」

「やったな!」

 

 ザノバとクリフが拍手をする。

 その表情は実に嬉しそうだ。

 

「それにしても……」

 

 クリフが興味深そうにスイカに近寄り、ツンツンとつついた。

 

「緑に黒か、禍々しい模様だな……持ってみても大丈夫か? 噛み付いたりしないよな?」

「ええ、でも落としたりはしないように。案外割れやすいから」

「ああ……お、結構重いんだな」

 

 クリフは興味深そうにスイカを持ち上げ、いろんな方向から回して見ている。

 しかし、スイカが禍々しいとは。

 やはりこの世界の人間から見ると、緑と黒の縞模様というのは、不気味に見えるものなのか。

 中身は真っ赤なわけだが、やはり気味が悪いと言うのだろうか。

 

 でも、この世界にも変な色や形をした果物や野菜はたくさんある。

 探せばスイカぐらいあるんじゃなかろうか。

 瓜はたしか、どっかで見たよな。

 

「なあ、ナナホシさんや」

「なに?」

「今思うと、夕張メロンとか召喚した方がよかったんじゃないか?

 あれ、品種改良で作られたから、こっちの世界には無いだろうし」

「……あなた、品種改良で作られたメロンの違いに見分け付くの?」

 

 言われ、俺も戸惑った。

 プリンスメロンとマスクメロンの違いぐらいしかわからない。

 

「大体、まだそこまで選べないわ。今回だって、キャベツを召喚するつもりだったんだもの」

 

 そう言って、ナナホシも微妙な顔をした。

 

 この世界にもキャベツに似た野菜はある。

 しかし、見分けが付くのだろうか。

 この世界のキャベツと、あっちの世界のキャベツとで。

 俺は農家じゃない。

 ナナホシも違う。

 野菜を召喚するというのは、最初から欠陥があったのではないだろうか。

 

「……」

 

 いや、大丈夫だ。

 理論にしたがって実験を行い、結果が出た。

 なら、これはスイカだ。

 この世界のスイカかどうか、確かめる術は無いが。

 しかし、結果は結果、スイカはスイカだ。

 成功と言っても過言ではないはずだ。

 

「ふむ、成功なら、今晩は祝いましょうぞ」

 

 ザノバはスイカが人の形をしていないせいか、興味が無さそうだった。

 

「ああ、そうだな」

 

 バーディガーディ、リニアとプルセナ。

 遠慮無く騒ぐ奴も少なくなった。

 

 宴会も少しさびしくなってしまう気がする。

 けど、気にする事はない。

 

 

---

 

 

 その晩、宴会が行われた。

 

 リニアとプルセナはいない。

 だが、その代わりロキシーとノルンが参加していた。

 人数的には、バーディガーディがいないだけだ。

 

 盛り上げ役を欠き、俺の身内が多くなってしまった。

 そのため、ちょっと空気感も変わっていたが、問題はなかった。

 

 ナナホシは浴びるように飲み、ジュリを人形のように抱きしめながら、エリナリーゼと何かを話している。

 エリナリーゼは慈愛の笑みを浮かべつつ、ナナホシの話を聞いていた。

 

 ザノバとクリフは、ロキシーとなにやら話をしていた。

 真面目な顔をしている所を見ると、研究の事だろうか。

 あの三人は真面目だからな。

 

「はい、どうぞルディ」

「うん、ありがとうシルフィ」

 

 シルフィはというと、俺の隣でずっと酌をしてくれている。

 

「シルフィは飲まないの?」

「ボク、お酒飲んだら変になっちゃうから、ちょっと控えようと思って」

「……そっか」

「今日は泊まりじゃないからね、ちゃんとルーシーにおやすみなさいするんだからね」

「わかってるよ」

 

 酔っ払ったシルフィ、可愛いんだけどなぁ。

 こう、遠慮なく甘えてくる感じで。

 でも、お酒を控えるこの感じ、良妻賢母って感じでいいなぁ。

 なんて思いつつ、シルフィとイチャイチャしてると、ロキシーがやってきた。

 

「ルディ。わたしもいいでしょうか?」

「何が?」

「ちょっと椅子を引いてください」

 

 言われるがまま椅子を引くと、膝の上にちょこんと乗ってきた。

 目の前にロキシーのつむじがある。

 膝にロキシーの尻の感覚がある。

 なにこの光景。素晴らしい。

 ああ、でもいけないよ。

 

「ロキシー。酔ってる?」

 

 シルフィが苦笑しつつ聞いた。

 

「少し」

 

 見れば、ロキシーの顔が少し赤い。

 彼女はあまりお酒を飲まないのだが、どういう事だろうか。

 滅多に見られない、乱れたロキシーを見れるのだろうか。

 

「ふぅ」

 

 ロキシーが俺の胸に、背をもたれさせた。

 軽い体重が胸元に掛かる。

 ドクドクという鼓動が聞こえる。

 

 あっ。

 すごい、この位置からだと、ロキシーのローブの胸元を引っ張れば中が見えそうだ。

 どうしよう。

 見たい。

 もっと飲ませてからの方がいいだろうか。

 

「なんかいいなぁ……ボクもあとで膝に乗せてね」

「もちろんだよシルフィ」

 

 なんだったら、左膝にロキシー、右膝にシルフィという形でもいい。

 先日三人で寝た時も、左にロキシー、右にシルフィという感じだったが、非常にいい。

 両手に収まりきらない幸せという感じだ。

 

「……兄さん」

 

 っと、鼻の下を伸ばしていると、ノルンが睨んできた。

 いかんいかん。

 

 ノルンを放っておいてしまった。

 彼女はこのグループ内に知り合いが少ない。

 一応全員と面識はあるが、会話をするレベルではないだろう。

 先ほどから、俺の真正面で静かにしている。

 

「ごめんなノルン。ちょっと居辛いか?」

「いえ、大丈夫です。その、少し話があるんですが、いいですか?」

「ああ、なんだい」

 

 俺はロキシーを隣の椅子に座らせ、ノルンに向き直る。

 

「はい。その、生徒会のことなんですけど」

「ああ、その事か」

 

 卒業式の日。

 ノルンは生徒会メンバーの末席にいた。

 俺を見て気まずそうな顔をしていたのが、実に印象的だった。

 

「アリエル先輩に誘われたんです。貴女は成績は決して優秀ではないですが、求心力があるからどうかって」

「なるほど……シルフィはその事を知ってたのか?」

「うん。一応」

 

 シルフィに聞くと、彼女はコクリと頷いた。

 知っていたらしい。

 もしかするとロキシーも、と見ると、やはり知っていたようで、目を泳がせていた。

 知らぬは俺だけとは。

 なんてこったい。

 

「ごめんね。ノルンちゃんが自分で言うからって、黙ってたんだ」

「そっか」

 

 シルフィが困った顔で謝った。

 もしかすると、酒を飲まなかったのは、この話のフォローをするためかもしれない。 

 ノルンは難しそうな顔で話を続けた。

 

「あの、兄さん。生徒会に、正式に入ってもいいでしょうか」

 

 もちろんだ。

 そう答えかけて、はたと止まる。

 ノルンは現在、二つの事をしている。

 剣術、本の執筆。

 本の執筆は急ぎじゃないし、週に一度程度でも、いっその事、保留という形にして、数年後に書いてもらってもいいが、剣術は毎日やらなければならない。

 

 剣術に、日頃の勉強。

 そこに、生徒会の仕事が入って、ノルンはやっていけるのだろうか。

 ノルンは決して落ちこぼれではないが、最優秀というほど優秀でもない。

 三つも四つも、並行して出来るのだろうか。

 

「ノルン」

「はい」

「そんなにたくさんの事、出来るのか?」

「……」

 

 ノルンは唇を噛んだ。

 自分でもオーバーワークになるかもしれないと思っていたのかもしれない。

 

「生徒会に入る事を反対するわけじゃないけど、中途半端になっちゃうんじゃないか?」

「大丈夫です」

「本の執筆も、剣術も、お前が自分でやるって言い始めたことだぞ?

 まあ、執筆は元々俺の仕事だから、いいとしても。

 剣術の方はどうするんだ? 勉強だって、3年からは難しくなるはずだし」

「勉強も剣術も、頑張ります」

 

 口は達者だ。

 しかし物事というのはそう多くは出来ないものだ。

 二つの事を同時にやろうとすれば、一つが蔑ろになる。

 

「ルディ」

 

 シルフィが困ったような目線を送ってきた。

 

「ノルンちゃん。今のところはちゃんとやれてるよ」

 

 そうなのか。

 今の所はね。うん。

 しかし、そんな状態が長く続いたらどうなる。

 潰れてしまうんじゃないか?

 

「そういえば、いつ頃から手伝ってるんだ?」

「生徒会の手伝い自体は、一年以上前になるんじゃないかな。確か、ルディが旅に行ってる間だよ」

「え? あ、結構長いんだな」

 

 旅に行ってる間。

 ってことは、俺が剣術を教え始めるより前って事か?

 ……あれ?

 

「大丈夫だよルディ。ボクが保証する。

 ノルンちゃんは、生徒会のメンバーとしても、ちゃんとやっていけるし、

 他の事だって中途半端にはならないよ」

 

 シルフィは力強く、そう言った。

 そうか。

 出来るかどうかじゃなくて、出来てから言ってきたのか。

 それじゃあ、反対出来ないな。

 

「そっか……ノルンも頑張ってたんだな」

 

 俺が見ていない所でも、ノルンは一生懸命だったのだ。

 なんかすごく嬉しいな。

 言葉に言い表せないうれしさだ。

 

「わかった。元々、俺が許可を出したりするもんじゃないと思うけど。許可しよう。ノルン。これからも頑張りなさい」

「はい、兄さん! ありがとうございます!」

 

 ノルンは元気に頷いた。

 結局は、本人の頑張り次第だ。

 けど、その頑張りを応援するのは周囲の義務だ。

 俺はいくらでも応援してやろう。

 

 なんて思っていると、ナナホシの声が聞こえた、

 

「スイカを切りましょう」

 

 本日召喚されたスイカは、宴会の途中で全員に振る舞われた。

 記憶にあるよりも、若干甘みや果汁は少なかった。

 きっと、カリフォルニア産か何かだろう。

 

 味はさておき、このスイカ。

 割ってみて、あることが判明した。

 

 なんと、種無しスイカだったのだ。

 こちらではその手の栽培法はあまり行われていない。

 

 つまり、実験は成功だった、というわけだ。

 

 

---

 

 

 宴もたけなわ。

 というには、少々過ぎてしまった。

 

 ナナホシが歌い、ノルンが踊らされ、

 ザノバはジュリに向かって人形について語りだし、

 ロキシーは酔っ払ってシルフィに介抱され、

 クリフはエリナリーゼとイチャイチャしている。

 

 宴会終了間際の、独特のぐったり感。

 俺もほろ酔いに身を任せ、椅子に体を預けている。

 心地いい。

 

「……お疲れ様」

 

 と、ナナホシが俺の所までやってきた。

 

「……コホッ、コホッ……」

 

 ナナホシはやや気持ち悪そうな顔だった。

 悪酔いしたのだろうか。

 風邪引いた状態で酒なんか飲むからだ。

 

「解毒、掛けてやろうか?」

「……お願い」

 

 解毒と治癒魔術を掛けてやると、ナナホシは若干楽になったらしい。

 幾分かスッキリした顔で、ほっと息をついた。

 

「ともあれ、助かったわ。ようやくこれで次の段階に進める」

「そうだな」

 

 ナナホシの研究を手伝い出してから、もう3年になるのか。

 早いもんだ。

 第一段階に対し、第二段階、第三段階は簡単にクリアできた。

 ザノバとクリフのお陰もあるが、当初思っていたより、ずっと順調だ。

 

「第四段階は、召喚物の詳細を指定する、って話だったか」

「そうよ。それについて詳しい人がいるから、聞きに行くつもりよ」

 

 例の、召喚術の権威というやつか。

 

「まさか、オルステッドじゃないだろうな」

「違うわよ。オルステッドも召喚は使えるけど、別の人よ」

 

 別の人か。

 それにしても、オルステッドめ、やはり召喚も使えるのか。

 オルステッドは人神いわく、世界で全ての技と術が使えるらしいからな。

 

 でも、使えるのと詳しいのとでは別という事だろう。

 開発者と使用者は、いつだって別の人種なのだ。

 

「それで、ちょっと提案なんだけど」

「なんでしょうか」

「前に、キャップの実験の時のお礼ができてないでしょ?」

「そうですね」

 

 そういえば、何かもらうのを忘れていた。

 丁度あの頃は、ルーシーの子育てで忙しかったからなぁ。

 人間、満ち足りているとハングリーさが欠けるね。

 

「今回のと合わせて、その人をあなたに紹介する、というのでどうかしら」

「紹介か」

「正直、あなたが知りたい召喚魔術って、そういう人から直接習った方がいいと思うのよ」

 

 まあ、俺は異世界召喚とか知らなくてもいいしな。

 確かに、異世界から何か呼び出せると色々と便利そうではある。

 子供のために哺乳瓶とか乳母車とかを召喚したりとかもしてみたい。

 けど、どうしてもってわけじゃない。

 十分に事足りているからな。

 普通の召喚術は、一応ながら習ってみたい。

 使う機会は少なそうだから、単純に好奇心からなるものだ。

 

 例の転移事件がどうして起きたのかってのは少し知りたいが、どうしてもってわけではない。

 

「でも、2回分のお礼になるような、凄い人物なのか?」

「ええ。もしかすると、あなたのお母さんの記憶喪失も、なんとかなるかもしれないわ」

「なに……」

 

 その言葉に、俺は思わず身を乗り出していた。

 話を聞いていたのか、ノルンがこちらに寄ってきた。

 

「それは本当か?」

「わからないけど、なにせ長生きしてるから、知ってる可能性も高いわ」

 

 ゼニスの記憶喪失が治る。

 今でも順調に回復はしていると思うが。

 しかし、記憶に関してはいまいち治るかどうかわかりにくい。

 治らないにしても、病名や似た症例について聞けるのなら、前世の知識との組み合わせで、少しは良くなるかもしれない。

 俺の前世の知識といってもたかがしれているが、それでも何か出来るかもしれない。

 

「ナナホシ殿の師匠の話であるか」

「紹介してくれるというのなら、ぜひ僕も会いたいものだな」

 

 いつしか、ザノバとクリフも寄ってきていた。

 クリフの後ろにはエリナリーゼもいる。

 エリナリーゼはさっきから一心不乱にクリフの耳をモミモミしている。何してるのかわからないが、楽しそうだ。

 

「まぁ……あなたたちも手伝ってもらったし。別にいいけど」

 

 ナナホシは少し難しそうな顔をしている。

 あまり名前を出してはいけない人物だったっけか。

 

「あ、ボクも少し興味あるな」

 

 などと考えていると、シルフィも寄ってきた。

 ロキシーはというと、椅子を並べて寝転んでいる。

 ノルンは興味があるのか無いのか、ロキシーの隣で遠巻きにこちらを見ていた。

 行くとなれば、彼女らも参加したがるだろうか。

 ナナホシ含めて七人か。

 

「あんまり大勢で押しかけたら迷惑じゃないか?」

「……それは大丈夫よ。12人までは問題ないって言ってたし。ここにいる全員で押しかけても問題はないはずよ」

 

 ナナホシは諦めたように頷いた。

 ともあれ、ザノバとクリフは参加ということか。

 まあ、ナナホシの方に問題がないとしても、俺は別だ。

 

「でも、会うとなると、時間も掛かるだろ?」

 

 徒歩で何ヶ月かかるのか。

 例の転移遺跡を使えば早いかもしれないが、

 そもそも、例の転移遺跡に行くのにも、5日は掛かる。

 往復で10日だ。

 そこからまた移動するんだろうから、1ヶ月は見た方がいいだろう。

 ルーシーの側を、そんなに長いこと離れたくない。

 

「会おうと思えば一日で会えるわ」

「へえ、近所なんだな。実はたまに会ったりしてたのか?」

 

 一日か。

 往復で二日。

 向こうで何泊かしても一週間で帰れるな。

 いっそルーシーを連れて行ってもいいぐらいだ。

 

「近所ではないし、会ってもいないけど、会う方法はあるのよ」

 

 魔力付与品(マジックアイテム)で連絡をとるのだろうか。

 テレフォンの魔道具は見たことないが、テレポートはあった。

 なら、存在しないって事はないだろう。

 文章を送るのにはそこそこ時間は掛かるようだが、

 単純な合図とかだったら、予め決めておけば通達出来るみたいだしな。

 信号弾みたいな感じで。

 

「なるほど、それで、なんて名前の人なんですか?」

 

 ナナホシは眉をひそめた。

 周囲を見回して客が多い事を確認すると、俺たちに顔を近づけるよう合図した。

 俺たちは内緒話でもするように顔を近づける。

 ナナホシは小声で言った。

 

「他言しないで欲しいんだけど、いい?」

 

 一言そう前置きをして、全員が頷く。

 ナナホシは言った。

 

「甲龍王ペルギウスよ」

 

 400年前、ラプラス戦役において人族を勝利に導いた、《魔神殺しの三英雄》の名を。

 

第14章 青年期 日常編 - 終 -

 

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