無職転生 - 異世界行ったら本気だす -

第二百三十一話「王竜王国王」

 俺はランドルフとの会合の後、一度大使館へと戻った。

 そして、改めて、現在の国王に対する謁見の手続きをとってもらう事にした。

 

 俺の現在の王竜王国での見られ方は、龍神の配下かつ、アリエルの友人かつ、ランドルフの友人かつ、ベネディクトの友人といった所か。

 大国の国王との謁見、許されるか否か。

 難しいラインだと思っていたが、案外、あっさりと謁見の許可が降りた。

 

「ルーデウス殿はここ最近、有名になっておいでですから、当然でしょう」

 

 とは、大使館の人の言葉だ。

 実感は無いが、確かに最近、知らない人に名前を憶えられている事も多いな。

 

 顔が売れて動きにくくなるのは勘弁してほしいが、

 こういう場でスムーズに謁見までこぎつけられるのはメリットになるな。

 よしとしておこう。

 

「ルーデウスなら当然よ」

「いや、エリス姉、一国の王様って、会いたいって言ってもそうそう会えるもんじゃないよ。ここはさすがって言っとかないと」

「さすがルーデウスね!」

 

 エリスは相変わらずだ。

 

 

---

 

 

 数日後、俺は登城し、王竜王城の謁見の間へとやってきた。

 

 自慢じゃないが、俺は謁見の間にはうるさい。

 アスラ王国、シーローン王国、キシリカ城……各地の城の謁見の間にお邪魔している。

 

 謁見の間というのは、見栄でできている。

 広い場所に、素晴らしい装飾を施し、時にはギンギラギンの甲冑を着た騎士を並べ、

 ウチの国はこんなにすげぇんやで、王様は偉いんやで、と他所様に力を誇示する場所。

 それが謁見の間だ。

 

 広さと華美さでは、アスラ王国が素晴らしかった。

 広くて、人数も多く、きらびやかな印象を受けるアスラ王国の謁見の間。

 アリエルの戴冠式の時だからいつも以上に飾ってあったのだろうが、

 広さ、人員、金のかかり具合、玉座、玉座に座ってる奴の美しさ。

 どれをとっても一級品だった。

 

 だが、はっきりと言っておこう。

 アスラ王国の謁見の間、確かに素晴らしいものだった。

 けど、世界じゃあ、二番目だ。

 

 その謁見の間は、謁見の間だけでない。

 謁見の間にたどり着くまでの順路にも気を配っている。

 城の外から、品のいい庭や、趣味の良い芸術品を並べて来訪者の目を楽しませつつ、しかし、道中に誰かと会う事はない。

 音もなく、静かに続く廊下。

 来訪者は荘厳な雰囲気を感じ取り、否応なくその緊張感を高めていく。

 

 そして、謁見の間へと続く巨大な扉。

 そこを開いた先には、お世辞にも華美とはいえない空間が待っている。

 装飾は必要最低限でシンプルな装飾だ。

 さらに、玉座の前に並ぶ12の騎士たち。

 彼らは、誰もが仮面を付けており、得体のしれない威圧感を放っているが、それ自体は地味にも感じられる。

 

 全ては玉座をより注目させるための措置だ。

 

 玉座に座るのは、唯一仮面を付けない男。

 その圧倒的な繊細さ、優美さ、存在感……誰もが息を飲むであろう。

 

 それはどこか。

 なにを隠そう、空中城塞ケイオスブレイカーだ。

 甲龍王ペルギウスだ。

 当時は気づかなかったが、あの全ては演出だったのだ。

 ペルギウスのセンスの良さは、世界一と言っても過言ではない。

 

「……おぉ」

 

 そんな俺だが、王竜王国の謁見の間を見た時には、感嘆の声が出た。

 この国の謁見の間は、アスラやケイオスブレイカーとは、少し毛色が違った。

 

 何より大雑把だった。

 まず、謁見の間の入り口に、巨大な甲冑が二つ門番のように立っているのだ。

 その高さは、三メートルぐらいあるだろう。

 魔導鎧と同じぐらいの大きさを持つ鎧が、デデンと、金剛力士像のように、謁見の間に来たものを見下ろすようにだ。

 

 この世界に、巨人族というものはいない。

 俺がしらないだけで、でかい種族はいるだろうが、

 少なくとも、王竜王国に、この鎧を着れる奴はいない。

 つまり、この鎧は、来る者に恐怖や畏怖を与えるために存在しているのだ。

 

 そして、中に入ると、目にはいるのは、鎧だ。

 入り口付近から玉座の近くまで、謁見の間をグルっと囲むように、カラっぽの甲冑がズラっと並んでいるのだ。

 そして、玉座へと続く金糸の絨毯の脇に、中身の入った甲冑が、王を守るように立っている。

 

 彼らが守るのは鈍色をした鉄の玉座だ。

 鎧をそのまま椅子にしたかのような金属の玉座に、鋲でクッションが打ち付けられている。

 実に座り心地が悪そうだ。

 

 装飾はほとんど無い。

 一応、同盟国らしき所のマークや、騎士団の紋章らしきものは飾ってあるが、それだけだ。

 

 無骨な石の壁に、銀色の甲冑。

 もう、強そうなものを並べておけばいいよね、って適当な感じ。

 だというのに、大勢に見張られているような、この威圧感。

 ……万人にはオススメできないので、評価は星4つとさせていただきます。

 

「王竜王国第33代国王ステルヴィオ・フォン・キングドラゴン陛下にあらせられる!」

 

 なんて考えてるうちに、国王陛下の紹介が終わった。

 俺は膝をついて顔をふせたまま、次の言葉を待つ。

 

「顔を上げ、名を名乗られよ」

「お初にお目に掛かります、『龍神オルステッド』配下、ルーデウス・グレイラットともうします。陛下においては、ご機嫌麗しゅう」

 

 そんな謁見の間の玉座に座っているのは、普通の男性だ。

 くすんだ金髪に、あまり似合わない王冠。

 年の頃は40ぐらいか。

 

 雰囲気的には、アリエルの兄貴に似てるな。

 グラーヴェル第一王子。

 

「貴公が、あの水神レイダを倒し、シーローンに攻め入る軍勢を一人で押しとどめたという、ルーデウス・グレイラットか?」

 

 また噂に尾ひれがついている。

 そろそろ、半魚人になってしまいそうだ。

 

「いえ、水神レイダは我が主が、軍勢は一人ではなく、我が師、並びにカロン砦の兵と共に成し遂げたことにございます」

「正直な者だ」

 

 王には威厳が感じられない。

 まだ、なったばかりだからか、それとも俺がより威厳溢れる人を見てきたからだろうか。

 

「だが、水神レイダや北帝オーベールの死に、そなたが関わっていたのは確かであろう」

「ハッ、否定はしません」

「我が国は格式より実力を重んじる。そなたのように在野でありながら実績を残したものは、高く評価するつもりだ」

「ありがたきお言葉」

 

 おっと、意外と好感触だな。

 普段はもっとこう下に見られるんだが……。

 やはり、段階を踏んだお陰だな。

 大使館から借りた服のパワーかもしれない。

 

「そなたのような者から話が聞ける機会は滅多にない……が、逆にそなたのような者が用も無く余の前に姿を現す事もない」

「それは……」

「ああ、まて、言うな、当ててみよう」

 

 王は手の平を前に突き出して俺の言葉を止め、己の顎をなでた。

 そこには綺麗に整えられた髭があった。

 思えば、この国の男は髭を伸ばしている者が多い。

 アスラでは剃っている者が多いから……文化なのだろう。

 

「まず、仕官ではないな。

 そなたはアスラのアリエル王と懇意なはず。

 となれば、我が国よりもアスラにゆけばよい。仕官のみならず、爵位ももらえるであろうからな。

 どうだ?」

「……おっしゃるとおりです」

 

 王は、さらに俺の姿をじっと見た。

 そして、ニヤリと笑いつつ、言葉を続ける。

 

「そなたほどの者がこの国に来て、余に便宜を図らねばならぬものとは……はてさて……。

 おお、そうだ。

 そういえば、巷で、不思議な噂が流れておったな……。

 シャガールよ、どんな噂だったか」

 

 王の言葉で、脇に立つ騎士の一人が、すっと頭を下げた。

 顔はチンピラの風情、ランドルフと同じ鎧を着ている所を見ると、同じ騎士団の……。

 あ、いやまて、シャガール。

 ちゃんと調べてある人物だ。

 

「ルーデウス・グレイラットが80年後のラプラスの復活に備え、各国への呼びかけを行っている、というものです」

 

 大将軍シャガール・ガルガンティス。

 王竜王国の『一の将』。

 長耳族とのクォーターで、粗野な言動が目立つが、行動派で切れ者。

 と聞いていたが、耳は短いし、言葉使いも丁寧だ。王の前だからかな。

 

「おぉ、それだ」

 

 ミリスの教皇も知っていたが、大国の情報網ってのは侮れないな。

 

「そして、その呼びかけの一貫として、

 各国に己の組織を置き、その組織を使った商売を行っている……違うか?」

「違いません」

 

 違わないけど……。

 でもなんか話がちょっと違う方向に行ってる気がする。

 

「そして、そなたは他国と同様に、余にも協力と許可を求めにきた……そうであろう?」

 

 国王、会心のドヤ顔である。

 まぁ、うん。

 ギースの一件がなければ、そのつもりだった。

 今回はちょっと違うが……。

 

 が、ここまでドヤっているのだから、否定したら機嫌が悪くなるだろうか。

 その気が無いわけでもないが。

 

「勝手にやればよいものを、わざわざ許可を得る。

 余は、そのような態度が嫌いではない」

 

 王は上機嫌で話を続けている。

 俺が動いているという情報を手に入れてから、俺がいつ来るのかと心待ちにしていたのだろうか……。

 いやまさかな。

 

「だが、求められたからと、すぐに許しては、国の威信というものにも関わる。

 王に頼めば何でも叶うと、愚かな群衆が押し寄せてきても困るのでな」

「……」

「そこで、一つ条件を……なんだ?」

 

 俺が無言で挙手すると、王は訝しげな表情を作った。

 少し、話が逸れ始めている。

 こいつはよろしくない。

 

「話の腰を折って申し訳ありません陛下。おっしゃる事に間違いはありませんが、本日、ここに来たのは、また少し違う用があっての事です」

「……ほう」

 

 先に要件を言わせてもらおう。

 

「ベネディクト様のお子についての事でございます」

 

 王の顔色が変わった。

 纏う雰囲気もだ。

 

「我が友ランドルフより聞いた話によると、どうやらベネディクト様のお子……パックス様が厄介者扱いされ、今のうちの処分しようという動きもあるのだとか」

「それがどうかしたか?」

 

 王は悪びれもせず、居丈高な声を出した。

 

「母親があのようななりでは、政略にも使えん。いずれ、足かせにしかならん者を生かしておく理由は、この国には無い」

「ランドルフ殿は? あの者を殺せば、ランドルフ殿が出奔致します」

「王竜王国は、ただ一人の列強に左右されるような弱小国ではない」

 

 そうでしょうとも。

 でなければ、小パックスを殺そうなんて話が持ち上がるはずもない。

 

「つまり、貴公がここに来たのは、その子供の助命嘆願のためか?」

「……いえ」

 

 俺は王の目を見て言った。

 

「助命というより、いらないのであれば、頂けないかなと思いまして」

「ハッ」

 

 対する王は鼻で笑い、脇の騎士シャガールを見た。

 

「聞いたかシャガール」

「しかと、この耳で」

 

 王はドンと足を踏み鳴らし、前傾姿勢となった。

 膝の上に肘を置いて、ねめつけるように俺を睨んだ。

 先ほどとは、また態度が違う。

 これがこの王の本性だろうか。

 

「ならば問おう。ルーデウス・グレイラット。その提案、互いにどんな益がある?」

 

 だが、慌てることはない。

 ビビることもない。

 ペルギウスの方が威厳があった。

 

「では、お話させて頂きましょう」

 

 この国の内情は、全て我が社の手中にある。

 社長はなんでも知っている。

 自分が動いた結果、何がどうなるかをね。

 

「まず、前国王陛下が崩御した頃から、王竜王国の属国が、三国ほど攻撃されていますね。北の紛争地帯にある国から」

「……」

「支配下にあるとはいえ、属国は属国、支援はしなければならない。

 混乱のさなかに起きたその戦争で王竜王国は痛手を受け、さらに今もなお、対応で一杯一杯のはず」

「それが……どうした?」

「私は、それを止められます」

 

 何しろ、その戦争を煽ってるのはアリエルだからな。

 王竜王国を攻めたくて仕方がない国を煽動して、武器を売りつけているのだ。

 アスラ王国はお金持ちだし、俺もよくお世話になっている。

 けど、そのお金は無尽蔵に生まれてくるわけではない。

 時には汚い事もやっているのだ。

 

 まあ、アスラ王国はそんな事しなくても莫大な金を生み出している。

 だから、どちらかというと王竜王国への嫌がらせの意味が強い。

 やめてって言えばやめてくれるだろう。多分。いやきっと。

 

「それから、陛下。国王崩御に際し、急遽大きなお金が必要になった事で、ミリス教会にいくらかの借金をしましたね?」

「……」

「現在、借金自体は返したものの、国内に神殿騎士団の逗留を許してしまっている。

 神殿騎士団は国内において強引な宗教勧誘を行っており、やや問題が起きているようだ」

「それも、止められると?」

「止められます」

 

 借金が残っているなら、俺も口出しは出来ない。

 だが、無いのであれば、これもミリス神聖国の王竜王国への嫌がらせにすぎない。

 神子か、教皇に言えば、すぐにでも神殿騎士団は本国へと帰るだろう。

 

 アリエルや教皇には借りを作る事になるが、問題ない。

 こういう時のためのコネだ。

 あとで何か要求されたら、その時また考えよう。

 

「さらに、将来的にパックスがシーローン王国との間で問題となった場合、責任を持って私が矢面に立ちましょう」

 

 その場合はザノバも連れてだな。

 ザノバと、ランドルフと、三人でだ。

 パックスの弔い合戦の形になるな。

 

「いかがでしょうか」

 

 ひとまず提示したのは三点。

 厄介者を生かしておくメリットとしては、十分なはずだ。

 

「……」

 

 しかし、王の表情はすぐれない。

 怖い顔で俺を睨んでいる。

 何か足りなかっただろうか。

 

「自分は良いと思います」

 

 助け舟を出したのは、シャガールと呼ばれた騎士だ。

 

「ルーデウス殿はアスラ王国、ミリス神聖国、双方に対する発言権を持っております。

 信憑性はあるでしょう。

 ルーデウス殿の提案は我が国でもすでに対応策をとっているため、大きなプラスには働きませんが……しかし、聞く所によるとルーデウス殿は、アリエル王やミリスの神子の弱味を握っているという話もあります。

 顔の広いルーデウス殿と繋がりを得ておく事はプラスになります。

 現状は、大きなマイナスをより小さなマイナスで埋めようとしている形、ゆえにプラスが――」

「シャガール、少し黙れ」

 

 王の静かな言葉に、シャガールは慌てて口をつぐんだ。

 

「利がある事はわかっておる」

 

 じゃあ、何が不満なんだろう。

 

「だが、この男の態度は気に食わん。まるで手の平の上で弄ばれているようだ」

 

 ああ、もっとへりくだった方がよかったのか。

 ちょっと上から行き過ぎただろうか。

 難しいな、そのへんの調整は。

 

「気に食わんから受け入れん、と言いたいわけではない。

 ベネディクトの子の処遇は、議会にて決めるべき事だ。

 それを、唐突にやってきた者の提案一つで決定していいものか」

「陛下、ですから、議会では苦肉の策だと説明したではありませんか。

 将来の騒乱の芽を残すか、今『死神』を失うか。

 議会では前者寄りですが、もしより良い選択があればそれを選ぶのは、何もおかしな事ではありませぬ」

「そうではない、そうではないぞ。

 ただ余が気にしているのは、歴史ある王竜王国の威信が守られるかどうかという事だ。

 新王になったとたん、優柔不断な政治を行っていると見られれば、

 今後の臣下の忠誠心にも響いてくるであろう」

 

 王は、体面を気にしているようだ。

 対してシャガールは、味方っぽいな。

 しかし、こんな会話を俺の前で繰り広げておいて、威信も何もないだろうに。

 

「うーむ……」

 

 まぁ、ここにいないメンツも含めて、ゆっくり決めてくれてもいい。

 宰相とかも交えて、ゆっくりとだ。

 ちゃんと話しあえば、悪い話ではないとわかってくれるはず。

 

 その上で断られたとしても、まだ次の手は用意してある。

 この国の重鎮の個人情報は、すでに全て取得済みだ。

 好きなもの、嫌いなもの、弱点、全部使って外堀を埋めていけば、意見を変える事も可能だろう。

 後に引きそうだから、あまりやりたくはないが。

 

「…………カークよ、どう思う?」

 

 王は、やや遠めの位置に座っていた青年へと声を掛けた。

 年齢は俺と同じぐらい。

 王ににた金髪に、薄めの髭を蓄えている。

 彼の事も、調べてある。

 

 カークランド・フォン・キングドラゴン。

 現在の第一王子で、いずれ国王になる人物だ。

 非常に賢く、政治的な手腕に長けている。

 

 が、彼にはかわいそうな未来が待っている。

 

 失恋という名の未来だ。

 現在、彼は恋をしている。

 アスラ王国の戴冠式に大使として赴いた彼は、アリエルに一目惚れしてしまったのだ。

 その後、何度もアスラ王国を行き来するが、25歳ぐらいの時に告白。玉砕。

 アリエルもよほど酷い振り方をしたのか、以後、カークはアンチ・アスラを掲げるようになってしまう。

 

「提案に、乗るべきかと思います」

 

 もっとも、まだ振られてはいない。

 現在の彼は、アスラ王国との友好を謳っている。

 

「紛争地帯を平定するまでは、アスラ王国と表立って敵対関係になるべきではないというのが、以前からの私の意見です。

 ルーデウス殿がアリエル王と懇意というのは、私もよく知っております。

 ここでルーデウス殿の提案を受け入れ、加えて龍神オルステッドと協力関係を結べば、

 アスラ王国とて、今のような手出しをしにくくなるものと考えます。

 何より、後の我が国のためになるかと進言致します」

 

 キッパリと言った彼からは、できる男のオーラが漂っている。

 俺とは大違いだ。

 その言動には、半分ぐらいアリエルに対する下心もあるのだろうが、

 できる男オーラのせいか、やましさが微塵も感じられない。

 イケメンの風格か。

 

「ふむ……」

 

 王はその言葉を受けて、天井を仰いだ。

 そこに答えが書いてあるかのように。

 

「よし……では、受け入れるとするか」

 

 王はぽつりとそう言って、視線を俺に戻した。

 答えはすでに王の中で出ていたのだろう。その途中式が納得できなかっただけで。

 

「ありがとうございます」

 

 俺は作法に則り、頭を下げた。

 が、すぐに上から声が降ってきた。

 

「よい、頭を上げろ」

 

 また、王の気配が変わった。

 言われるまま、頭を上げると、王は苦笑していた。

 威厳も何もない、疲れた男の苦笑だ。

 

「今の王竜王国は、この程度だ。

 優柔不断で威厳の無い王のせいで、混乱した状態が続いている。

 80年後を見据えて準備をしている貴公には悪いが、

 さしたる協力は出来んかもしれん」

「……いえ」

 

 ああ、これか。

 これが、この王の本性か。

 

 そう悟ると同時に、オルステッドの情報が思い出される。

 

 王竜王ステルヴィオの在位期間は、短い。

 あと10年もしないうちに重い病気に掛かり、息子に王位を譲渡する。

 カークが王になった後の王竜王国は、凄まじい躍進を見せる。

 そこからが本当の王竜王国の始まり……ステルヴィオは繋ぎの人物だ。

 

 だから、俺もこの人物に関して、あまり憶えていなかった。

 だが、どうしてだろう。

 今、俺は、重要人物であるシャガールやカークより、この王の事が気になっている。

 今のちょっとしたやりとりで、気に入ってしまったのだろうか。

 

「俺は、好きですよ。そういうの」

 

 彼はこの鎧に囲まれた玉座に座り。

 才もなく、王としての役割を全うせねばならず。

 だが決して腐ることもなく、周囲に助けられながら、王として精一杯生きたのだろう。いや、生きるのだろう。

 せめて、王らしくと演技をしながら。

 

「ははは、好きか。無礼な奴だな。ルーデウス・グレイラット」

「それは、失礼を」

 

 きっと、彼は歴史に何も残せない人間だ。

 付き合ったとしても、何か大きな利益に繋がるわけではないだろう。

 けれど、生きている間は、仲良くしておきたい。

 

 純粋に、そう思った。

 

 

---

 

 

 かくして、小パックスの命は助けられた。

 ベネディクトも日々の恐怖から解放され、ランドルフもご満悦。

 王竜王国も、ランドルフを失わずに済んで、万々歳といった所だろう。

 

 ついでに俺も、当初の目的である「ギースの指名手配」をしてもらえて、ほっと一息。

 傭兵団の設立はまた今度になるが、あの王が在位中に話を持っていけば、おそらく大丈夫だろう。

 王竜王国とは、今後も仲良くやっていけそうだ。

 これでマッチポンプでなければ最高だったんだが……。

 

 アリエルと教皇には借りを作ったが、いずれ返そう。

 小パックスの一件で数年後にまた何かあるかもしれないが、

 その時は、ザノバと共に、あの一件のケリを付け直そう。

 

「いや、助かりました。このままでは、主を連れて、王竜王国を滅ぼさねばならない所でしたからねぇ」

 

 別れ際、ランドルフはカタカタと笑いながら、そんな事を言った。

 実際、この男にその力は無いのだろうが、覚悟はあったのだろう。

 

 ランドルフと戦って兵を死なせるか。

 将来的にシーローン王国と一悶着起こすか。

 

 なぜ前者を選んだのか、馬鹿じゃねえのか。

 と俺が思うのは、ランドルフの強さを直に味わった事があるからだろうな。

 

「しかし、国王陛下に気に入られてしまったとなれば、私のできる事も無くなってしまいましたな。これは、よろしくない」

 

 ランドルフは、あくまでもベネディクトの側を離れるつもりはないという事か。

 まあ、それならそれでいいんだけどな。

 

「ルーデウス殿は、魔帝キシリカ・キシリスをご存知で?」

「……ええ。二度ほど、出会った事があります」

「人を探すのであれば、先に彼女を探しだすのをオススメしますよ」

 

 そうか。

 キシリカがいたな。

 ロキシーは、彼女の能力を使って、ゼニスを探したという。

 千里眼にも似た魔眼を持っているのだ。

 確かに、彼女に頼めば、ギースの居所も一発……とまではいかないだろうが、かなり絞り込めるはず。

 なんで思いつかなかったんだろうか。

 いや、あれが頼れる存在かどうか、イマイチわかってないからだ。

 

「代償を要求されるやもしれませんが、この指輪を見せて『ランドルフの願い』と言えば、多少の無理も聞いていただけるはずです」

「おお……」

 

 メシを奢らなくてもいいと。

 

「わかりました。では、頂いておきます」

 

 俺はランドルフから、一つの白い指輪を受け取った。

 おそらく、何かの骨で出来ている。

 不気味なアイテムだ。呪われてそうだが……でも装備しとくか。

 

「では、ルーデウス殿、健闘を祈ります」

「ランドルフさんも、お達者で」

 

 こうして、俺たちは王竜王国を後にした。

 

 次は、魔大陸。

 魔王アトーフェラトーフェの所だ。