無職転生 - 異世界行ったら本気だす -

第二百三十九話「作戦会議」

 前回までのあらすじ。

 ギースを倒すべく、世界各国の首脳や列強を仲間に引き入れたルーデウス。

 彼は魔界大帝キシリカの餌付けに成功し、ギースの居場所を知る。

 ギースの居場所はビヘイリル王国!

 しかし、そこには北神カールマン三世の姿もあるという。

 北神を仲間に引き入れるか、それとも剣神に先に声を掛けるか。

 迷うルーデウスの元に、傭兵団から「ルイジェルドと思わしき人物」の発見報告が届いた。

 発見場所はビヘイリル王国。

 ルーデウスは、『ギース』『北神カールマン三世』『ルイジェルド』三人の存在が集結したビヘイリル王国に旅立つ事を決意した。

 オルステッド事務所の会議室。

 そこで、俺はオルステッドの真正面に座っていた。

 両脇には、それぞれエリスとロキシー、シルフィ、ザノバといった面々もいる。

 議事録の作成はロキシーである。

 

「――と、いうわけです」

 

 俺は、今回の一連の発見報告を、まとめてオルステッドに報告した。

 

 ギース、北神カールマン三世。

 二人がビヘイリル王国で発見されたと聞いた時、オルステッドは上機嫌だった。

 口にこそ出さないが「でかした!」と言いたげな雰囲気があった。

 俺もノリノリで報告を続けた。

 

「……」

 

 だが、その上機嫌は「ルイジェルドを発見した」と報告した瞬間、消えた。

 はっきり、濁った。

 

「……あの、何か?」

 

 怒っているような、そうでもないような。

 負のオーラのあふれる気配で、俺を睨んでいる。

 今更、睨まれたぐらいで足が震える事は無い。

 だが、理由がわからないと、少し不安になる。

 

「……ビヘイリル王国には、鬼神もいるな」

 

 鬼神。

 ああ、そういえば鬼神のいるという鬼ヶ島は、ビヘイリル王国の東に位置している。

 や、忘れてたわけでもない。

 でも、確認だ。

 

「鬼神は敵に回りやすいという話でしたか?」

「今代の鬼神は、過去のループで一度、使徒になったこともある」

 

 そうか。

 なら、ギースの居所が罠である可能性が増したかな……。

 あるいは、ギースの目的が鬼神である可能性もあるか。

 そのへんは会議室で話していてもわからない事だ。直接行ってみないとな。

 が、今いるのは会議室だ。

 会議室で出来る会話は、会議室でしておこう。

 

「それも含めて、今後の方針について話したいと思います」

「ああ」

「ひとまずこれだけ材料が揃っているのですから、ビヘイリル王国に行かない、後回しにする、という選択肢は無いと思います」

 

 とりあえず、そこから作戦のプレゼンを開始する。

 

「これがギース、ひいてはヒトガミの罠である可能性もあります。

 が、逃げまわるギースを、次にいつ捕捉できるかもわかりませんし、絶好の機会にも思えます。

 剣神に声を掛けられなかったのは心残りですが、俺はビヘイリル王国に行こうと思います。

 どうでしょうか」

「異論は無い」

 

 どのみち、ギース発見の報告を受けて、すでにアトーフェは独自に動いてしまっている。

 どういうルートを通るつもりかは聞いていないが、さすがに到着はかなり遅れるだろう。

 一ヶ月か二ヶ月か、あるいはもっとだ。

 到着した彼女と合流するためにも、彼女の事を現地の人々に説明するためにも、ビヘイリル王国にはいかねばなるまい。

 

「やるべきことは4つ。

 ギースの発見、撃破。

 北神カールマン三世の発見、説得。

 ルイジェルドの発見、説得。

 鬼神の発見、説得あるいは撃破。

 優先順位は、今言った順……で、いいですよね? オルステッド様」

「……ああ」

 

 個人的にはルイジェルドに真っ先に会いたいが、やはり北神が先だろう。

 鬼神に関しては、いっそ海からやってくるアトーフェをぶつけてしまうのが楽かもしれない。

 このまま連絡を取らずにいたら、まずそうなるだろうし。

 ていうか、アトーフェにはどうやって連絡取ればいいんだろうか。

 連絡手段はネクロス要塞に設置した通信石版しか無いはずだ。

 ……まあ、そのへんはアトーフェが到着してから考える、という方向でもいいかもしれない。ていうかそれしか無いかもしれない。やはり緊急連絡が出来ないというのは不便だ。

 

「さらに、ギースを発見した時、ギース側の戦力が大きいようなら、こちらも援軍を呼び込みます」

 

 敵はビヘイリル王国にあり。

 だが、戦力をビヘイリル王国に集めて、その時にはすでにギースはいませんでしたー、という肩透かしだったら、俺は狼少年になってしまう。

 往々にして起こりうる事だろうが、各国からの信用も減るだろう。

 

「援軍を呼ぶタイミングは、ギースを発見してからでも、遅くは無いと思っています」

 

 なので、敵がいる、決戦がある。

 と、確定してから味方を呼んだ方がいい。

 ギースを見つけた、味方を集めた、逃げられた、解散!

 を繰り返して、いざって時に味方を集められなかったら、何の意味もない。

 

「そのため、各地に援軍を呼びこむ用の転移魔法陣を設置しておこうと思います」

 

 ビヘイリル王国は小国だが、そのくせ三つの大きな都市を有している。

 首都ビヘイリル。

 第二都市イレル。

 第三都市ヘイレルル。

 

「3つの都市の周辺に、それぞれ転移魔法陣を設置します」

 

 俺はロキシーをちらりと見る。

 

「転移魔法陣を正確に描ける人間は限られていますが、こんな事もあろうかと、偉大なる我が先生が、転移魔法陣のスクロールを何組か、用意してくださっていました。拍手」

 

 万雷の拍手が巻き起こる。

 紙吹雪が舞い散り、ステージ上のロキシーに振りかかる。

 マイクを持ったロキシーがホールに集った世界中のファンに手を振ると、その瞬間に失神するものが続出した。

 俺の脳内で。

 

「ギースの発見・未発見に関わらず、ギースの逃走経路は塞ぎます。

 ビヘイリル王国の隣国に人を送り、街道を監視。

 これには、シャリーアにいるルード傭兵団を使います」

 

 リニアとプルセナだな。

 アイシャも動いてくれるだろう。

 

「逃げ道を塞いだ上でギースを捜索、発見と同時に援軍を投入。一気に潰します」

 

 大事なのは、敵がそこにいると確定すること。

 それから、戦力が集まるまで、敵に逃げられない事だ。

 

 幸いにして、ビヘイリル王国は森、山、海に囲まれているため、隣接している国は多く無い。

 逃げ場を塞ぐのは、そう難しいことではない。

 

 もっとも、キシリカは、魔眼でギースを見つけた時、ヒトガミの存在を察知した。

 なら、あの瞬間、逆にヒトガミに察知されていた可能性は高い。

 すでに逃げられている可能性だってある。

 ギースが手紙の通り、誰かを仲間にしているというのなら、森からでも脱出できるだろう。

 隣国を押さえるのは、気休めだな。

 

「なるほど。それで各地の魔法陣は誰が?」

「手分けをしましょう。三手に分かれて」

「……それは、ダメなんじゃないかな? だって、ルディが狙われてるんでしょ?」

「うん」

 

 シルフィの言葉に、俺は頷く。

 信じるかどうかはさておき、ギースの手紙によると、狙われているのは俺だ。

 俺が単独で動けば、そのまま罠に飛び込む形になりかねない。

 各個撃破の危険もある。

 

「でも、俺はオルステッド様の腕輪のお陰で、ヒトガミの監視から逃れています。

 ギースとヒトガミは、俺とオルステッド様、並びにその周辺の人物の感知が出来ません。

 とはいえギースの事です、アナクロな手段で俺を見つけようとしてくるでしょう。

 つまり、普通に情報収集での発見です。

 だから変装して侵入。

 見つからないうちに手早く魔法陣を設置。という形にします」

 

 罠であろうとなかろうと、俺は姿を見せないようにすべきだ。

 だから、変装する。

 その状態でも、ギースを見つけるために情報収集をしていればいつかはバレるだろう。

 だが、国に入り、即座に囲まれて撃破される、というシナリオは回避出来る。

 運よくうまいこと動ければ、ギースが罠を張っていたとしても先手を取ることもできるはずだ。

 

 罠では無かったとしたら、キシリカの魔眼で捕捉されたのが、ギースやヒトガミにとって予想もしていなかったということになる。

 その場合、ギースは逃げるだろう。

 かといって、ギースも用があってビヘイリル王国にきているはずだ。

 俺が来る前に、ギリギリまで自分の用事を終わらせようとするかもしれない。

 変装をして、俺の発見を遅らせる事で、逃走までの時間を伸ばすことが可能かもしれない。

 しない理由は無い。

 

「ルディの姿を隠したいとなると、陽動があった方がいいかもしれませんね」

 

 と、そこでロキシーが提案した。

 陽動。

 つまり、俺が「罠だと察知して、ビヘイリル王国に来なかった」と思わせる事だな。

 撒き餌で魚を呼び寄せたものの、釣れるのは雑魚ばかりで、目当ての魚はいなかったとなれば、向こうも混乱するかもしれない。

 

「陽動ですか、何か具体的な案が?」

 

 ロキシーは頷いた。

 

「はい。わたし達の誰かが剣神の所に行くというのはどうでしょうか。

 アリエル陛下はすぐに援軍をよこすと言っています。

 なら、その中にはまずギレーヌとイゾルテもいるでしょう。

 この二人なら、剣の聖地の面々にも詳しいでしょうし、敵に回っても遅れを取る事は無いかと。

 仮に剣神が敵に回っていたとしても、事前に情報収集して接触せずに戻ってくれば問題ありませんし、剣神は無理でも剣王ニナを連れてくる事は出来るかと思います」

 

 剣王ニナか。

 アスラ王国で会った相手だ。

 エリスが珍しく、自分から仲間に引き入れようとしていた人物。

 剣神の代わりにはならないだろうが、エリスと互角なら、確かに戦力になるだろう。

 

 敵なら無理はせず、ニナだけ連れてサッと帰ってくる、と。それが出来るかどうかはさておき、ギレーヌとイゾルテがいるなら不可能ということは無い気がする。

 

「あ、じゃあその仕事、ボクが行くよ」

 

 と、挙手したのはシルフィだ。

 シルフィが剣神の所……まあ、彼女なら交渉は出来るはずだ。

 一応、ニナ、イゾルテ、ギレーヌ、三人ともに面識があるわけだし。

 

 さらに言えば、シルフィが行く、ということ自体が陽動にもなる。

 すでに子供は生まれてしまったため、嫁を殺す価値は薄いはずだが、ヒトガミだって、俺が誰を守りたいか、よく知ってるはずだ。

 嫁が分散すれば、俺の居所を判別しにくくなるかもしれない。

 ただ、懸念が一つ。

 

「……危なくはないですか?」

「もちろん危険はあります。しかし、ギースの居所はわかっているのですから、危険は少ないと思います」

 

 確かに。

 ギースも、せっかく仲間にした人物を、各個撃破されるような真似はしないだろう。

 ギースが別の所にいるなら、仲間もそっちについていっていると見るべきだ。

 と、思うが、その思考が読まれているかも。

 

「ヒトガミも、ルディが何を一番大事に思ってるかはわかっていると思います。わたし達がいけば、陽動にはなるかと」

 

 ロキシーが、先ほど俺が考えたことを念を押すように言った。

 

 でも……あれ?

 そう考えると、俺の作戦ってヤバくないか?

 ビヘイリル王国内に転移魔法陣を設置し、戦力を集める。と言っても、それぞれの場所への移動に半日から一日は掛かるだろう。

 各個撃破される可能性は、ありうるんじゃないのか?

 

 なんか、総力戦っぽい感じになってきてるし、

 これって、バラバラになった仲間が次々と死んでいくフラグとかじゃなかろうな。

 いや、フラグとか、なんの意味もない事はこの世界にきてから、よーく理解しているつもりではあるけど……。

 

「でも、ちょっと、心配だな……やっぱ、やめた方がいいかな、この作戦……」

「ルディ……」

 

 ロキシーがふぅとため息をついた。

 弱気になった俺の考えを見ぬいたかのように。

 

「いいですか、ルディ。

 迷宮に潜る冒険者は、誰一人欠ける事無く冒険を終える事を目指します。

 全員、それぞれが出来ることを全てやり、生還の確率を上げるんです。

 わたし達は今まで、家で子供の面倒を見ることが『出来ること』だと思ってやってきました。

 わたしもシルフィも、ルディやエリスに戦いで遠く及びませんからね。

 ですが、今、わたしが提案した事は『出来ること』で、

 全員が生還する確率を上げることだと思っています」

 

 確率……か。

 でも、そうだな。確実な事なんて、何一つない。

 安全に、確実に、と思っても不慮の事態は起きるし、考えの及ばない何かが失敗を引き起こす。

 

「ルディが、わたし達を家に閉じ込めておきたいと思っている事は知っています。

 でも、どれだけ閉じ込めていても、負けたら最後。全滅です。

 どんな行動にもリスクはあります。

 危険を冒して、最後に皆で笑いましょう」

 

 誰か一人でも死んだら、俺は笑えるんだろうか。

 ビヘイリル王国に行って、帰ってきたら、ロキシーが、シルフィが、エリスがいない。

 そんな状態で笑えるか?

 笑えない。

 

「ルディ、わたしたちは、もう親なんです。

 自分たちだけでなく、将来の事も見据えましょう」

 

 そんな言葉で、ふとパウロの顔が脳裏をよぎった。

 パウロが生きていたら、今、この瞬間、どうしただろうか。

 転移迷宮に入った時は、俺を連れて行った。

 転移事件の頃は……切羽詰まっていたから、置いとこう。

 それ以前。

 ブエナ村で暮らしていた頃。

 少なくとも、パウロは俺を家に閉じ込めたりはしなかった。

 守ろうとはしていただろうけど、ちょっと歩けば危険な事もあるだろう村を、一人で出歩かせていた。

 

 ゼニスだって、妊娠していない時は、村の治療院で働いていた。

 妊娠しても、安定していた時期は、ちょこちょこ出かけていたようにも思う。

 

 パウロが全面的に正しいわけではない。

 パウロには明確な敵がいたわけじゃない。

 でも、俺は今、生きている。

 そう考えると、何でもかんでも、というのは、ちょっと過保護すぎるのだろうか。

 や、でも状況は全然違うし……。

 

「うん。ロキシーの言うとおりだ」

 

 シルフィが同意した。

 

「リスクは負おう。敵を倒した時、誰かが生き残って子供たちの面倒を見ればいいもんね」

「……そうね!」

 

 シルフィの言葉に、エリスが頷いた。

 彼女が今までの話をわかっているのかわからないが、少なくともシルフィの言葉には同意したようだ。

 

「……」

 

 ザノバやオルステッドは答えないが、しかし反対の声を上げるわけでもない。

 

「よし、じゃあ、そういう形でいこう。異論のある人は?」

 

 異論は無い。

 なら、この作戦で行こう。

 俺の姿をくらましつつ手分けしてギースを捜索し、発見したら逃さないように退路を押さえつつ援軍を待ち、撃破するのだ。

 

「では次に、詳細を詰めましょう」

 

 あとは、詳細を詰めるだけだ。

 

 

---

 

 

 話し合いの結果、以下のチームに分けられた。

 

・隣国でギースの逃げ場を塞ぐチーム

 アイシャ、リニア、プルセナ、その他傭兵団の面々

 

・剣の聖地からニナを連れてくる陽動チーム

 シルフィ、(ギレーヌ、イゾルテ)

 

・首都に向かうチーム

 ザノバ、ジュリ、ジンジャー

 

・第二都市へと向かうチーム

 ルーデウス

 

・第三都市へと向かうチーム

 エリス、ロキシー

 

 

 それぞれ、転移魔法陣を設置した後は、個々にギースや北神を探していく形になる。

 シルフィは先ほど提案した通り。

 ザノバは主に情報収集。

 エリスとロキシーは、鬼神への対処だ。

 逃走経路を潰すチームは、アイシャに指揮を頼めば、うまくやってくれるはずだ。

 俺の仕事は、ルイジェルド関連になる。

 

 前々から色々とありそうだと言われている鬼神。

 タイミングよくビヘイリル王国に向かったという北神カールマン三世。

 俺と関わりの深いルイジェルド。

 

 ギースの行動がいまいち予測しきれていない事もあり、戦力をバラけさせることになった。

 情報交換を密にしつつ、臨機応変に動いた方がいいだろう。

 

 ビヘイリル王国に行くメンツは、すぐに動く。

 ぐずぐずしていれば、ギースに行方をくらまされるかもしれない。

 またギースを探すためにキシリカを探して、と繰り返すつもりはない。

 

 シルフィが動くのは、もう少し後だ。

 アリエルはすぐに援軍を送ると言ってくれたが、向こうにも向こうの事情がある。

 数分後に、ギレーヌとイゾルテが到着、という形にはなるまい。

 ジュリ、ジンジャー、リニアとプルセナ、傭兵団の面々には、他の仕事もある中で無理を言ってこっちを優先してもらう形となる。

 だが、ここが正念場だ。

 無理を通してでも、やらねばならん。

 

 チャンスか罠か。

 都合はいいかもしれないが、俺は前者であることを願う。

 

 という計画を、通信石版を通じて、アリエルとクリフにも伝えておいた。

 アリエルからは「至急援助を送る」とすぐに返事が戻ってきたが、クリフからはまだだ。

 自室に石版が置いてあるアリエルと違い、ミリスでは傭兵団を経由してクリフの所に届く形になるから、返事に時間が掛かるのだろう。

 

「何か質問は?」

 

 周囲を見渡すも、挙手は無い。

 質問はなさそうだ。

 

 少し不安なのは、ザノバか。

 状況から見て、鬼ヶ島に近い第三都市と、ルイジェルドの発見報告の近い第二都市を重要視したが、首都は最も人の集まる場所だろうし、一番危ないかもしれない。

 ジンジャーの情報収集能力は高いと思うし、ザノバは強力な武人だが、火魔術に弱い。

 死んでくれるなよ、と思う。

 

「ザノバ、気をつけろよ」

「わかっております。しかし、余としてはむしろ、店の方が心配ですな」

「ああ、そうだな……」

 

 一応、店舗にしろ工場にしろ、トップがいなくても動くようにはなっている。

 だが、ザノバとジュリ、二人がいなくなれば、大きなトラブルが起きた時に、どうなるか。

 

「ジュリは残して行きたかったな」

「ハッハッハ、二度と離れぬと約束したものでしてな」

 

 ザノバはジュリに愛されているな……。

 ていうか、ザノバの方はどうなんだろうか。

 二人は愛しあったりしてるんだろうか。

 そのへん、ちょっと突っ込んで聞けないな。

 ザノバはなんかこう、女に対して一歩か二歩、引いている所もある。

 もし子供とか作ったら、このロリコン野郎っておもいっきりからかってやるつもりはあるけど、あまり外野としてうるさくしたくない。

 

「エリスも、大丈夫か?」

「…………大丈夫よ」

 

 エリスは不満気だ。

 彼女は俺と行動を共にしたかったらしい。

 しかし、そうなるとロキシーの護衛が出来るものがいなくなってしまう。

 それに、エリスといると、非常に目立つ。

 彼女は隠密行動などできやしないのだ。

 だから、二番目に目立つであろう、ロキシーにつける。

 彼女らも、陽動の一種だ。

 

「ルーデウスが一人なのが心配だわ」

 

 確かに、俺も自分の心配はしている。

 きちんとギースの目から逃れつつ、情報収集することが出来るのか。

 ギースは情報屋としての腕は一流だ。

 よほどうまく動かないと、北神カールマンやルイジェルドを探しているヤツがいるとわかった時点で、俺がギースに捕捉される。

 捕捉されるのが早すぎれば、当然のように逃げられるだろう。

 そもそも、俺が一人で動くとロクな事が起きない。

 

「まあ、俺はなんとか、うまくやるよ」

 

 この半年で、諜報に役立つヤツをもう一人か二人ぐらい捕まえておけばよかったかもしれない。

 悔やんでも仕方ない。

 こういう形は想定できていなかった。

 

「オルステッド様はどうします? 一応、ここに残って通信石版の管理とか、家族の守護とかしていただけるとありがたいのですが」

「……いいだろう」

「ありがとうございます」

 

 オルステッドは留守番。

 彼は目立つから、あまり情報収集等には向いていないしな。

 もしかすると、必要な場もあるかもしれないが、

 極力この場にいて、決戦の時に参入してもらった方がいい。

 もっとも、魔力の関係もあるから、あまり戦闘には参加してもらっても困る。

 最後の切り札、みたいな感じだ。

 ていうか、彼の魔力を温存させるために俺という配下がいる。

 なので、オルステッドが戦ったら負けかなと思ってる。

 

「……」

 

 オルステッドは押し黙った。

 何か言いたそうな感じだが、ヘルメットのせいで表情はうかがい知れない。

 懸念でもあるのだろうか。

 いや、これから大きな作戦を行うということで、彼も緊張しているのかもしれない。

 

「ルーデウス。念のため、その指輪は身につけていろ」

「指輪?」

「死神の指輪だ」

 

 唐突にそう言われ、手を見る。

 そこには、悪趣味なドクロの指輪がハマっている。

 死神にもらったものだ。キシリカに会った後も、なんとなくつけている。

 

「理由を聞いても?」

「念のためだ。つけているだけで、効果がある」

「……了解しました」

 

 よくわからんが、つけているだけで効果があるなら、まあいいか。

 その時になれば、わかるだろう。

 

「それから、一つあや……」

「あのー」

 

 と、そこで誰かの声がした。

 オルステッドが口をつぐんでしまう。

 

 誰だ、社長のお言葉を邪魔する愚かな社員は。

 

 と、周囲を見渡しても、誰も声など上げていない。

 挙手をしている奴もいない。

 でも、女の声だった。

 てことは、犯人は三人のうち、誰かだ。

 

「会長――――」

 

 俺を会長と呼ぶ人物、それはすなわち……あれ、いないな。

 

「お客さまです――――!」

 

 いや、わかってた。

 声は遠い。

 皆の視線が、扉の方を向いている。

 これは受付のエルフ子ちゃんの声だ。

 名前なんつったっけかな。

 

「失礼、ちょっと見てきます」

 

 会議中は誰も呼ぶなと言ってあったんだが……。

 火急の用かもしれないな。

 

 

---

 

 

「……うおっ!」

 

 ロビーに入った瞬間、目に飛び込んできたのは、金色だった。

 黄金だ。

 もう、足の先から、頭のてっぺんまで金。

 キラキラと光る、黄金の鎧を身にまとったヤツが立っていたのだ。

 

「な……!」

「やあ」

 

 その金色は、気軽に片手を上げた。

 その声音、その動作に、俺はある存在の幻影を見た。

 さらに黄金色の甲冑。

 黄金騎士。

 闘神鎧は、金色だったという。

 そして、バーディガーディは以前、使徒で、黄金の鎧を身につけてラプラスと戦ったという。

 そう、攻めてきたのだ。

 ギースは囮!

 ヒトガミが黄金鎧をサルベージして、ここに尖兵を送り込んだのだ!

 

「こちらの方、アリエル陛下の命令で、転移魔法陣を通っていらっしゃったそうです」

 

 って……んなわけない。

 鎧も、光の加減でそう見えただけで、よく見るとくすんだ黄土色だ。

 

「ああ、これはどうも」

 

 男は兜を外した。

 下から現れたのは、この世界では結構珍しい、黒髪だ。

 年齢は50歳ぐらいだろうか。

 皺が深く、ベテランの風格を持っている。

 

「お初にお目にかかります。アリエル陛下の騎士シャンドル・フォン・グランドールと申します」

「ああ、これはどうもご丁寧に。ルーデウス・グレイラットと申します」

 

 頭を下げられたので、頭を下げ返す。

 大層な名前だ。

 グランドール家、聞いたことはないが、貴族様だろうか。

 

「先ほど、アリエル陛下より密命を受け、こちらに参りました」

 

 そう言って、シャンドルは小脇に抱えた箱を差し出してきた。

 先ほど……って、さっきか。

 会議中に計画内容を連絡したばかりだというのに、随分と早いな。

 

「はい。これは?」

「中に、顔を変える魔道具が入っております。必要だろうとの事です」

 

 おお。

 そういえばアスラ王国にはそんな魔道具があったな。

 アリエルが変装につかったやつだ。

 

 それにしても用意がいい。

 最初から、使うだろうと用意しておいたのかもしれない。

 

「中をお検めください」

「はい」

 

 言われて中を覗くと、確かに、見覚えのある緑の指輪と赤の指輪が、一揃い。

 緑の指輪を装備した者は、赤の指輪を装備した者と、同じ顔形と髪色になる。

 これを使えば、何の変哲もない村人に化ける事が可能だ。

 

「それから、こちらはアスラ王国の記章となります。

 何かあれば、これと自分の名前を使って良い、と陛下はおっしゃっておりました」

 

 さらにもうひとつ、箱が差し出される。

 受け取って中を見ると、確かにアスラ王家の紋章の入ったメダルが入っている。

 真新しい所を見ると、いちいち書状を書くのも面倒と見て、新たに作らせたのだろうか。

 また一つ、アリエルに借りが出来てしまうな。

 

「それと、我々も、ルーデウス様のお手伝いをするようにと言付かっています」

 

 お手伝い……。

 てことは、援軍までの繋ぎか。

 さすがに、いきなり剣王や水帝を出張させるのも難しいから、暇そうな騎士を寄越してくれたという事だろう。

 

 いや、繋ぎなんて言い方は彼に悪いな。

 彼も立派な援軍だ。

 アリエルの事だから、きちんと守秘義務を守れるヤツを選んでくれたはずだ。

 転移魔法陣の事を言いふらさないヤツだ。

 

「ん? 我々?」

「はい。ほら、挨拶しなさい」

 

 シャンドルがくいっと顎を動かすと、壁が動いた。

 ロビーの隅の方、まるで置物のように置いてあった、巨大な甲冑が動いた。

 さっきまであんな甲冑なかったのに、気付かなかった……影が薄いのだ。

 でも、一度意識すると存在感がある。

 鈍色の分厚い甲冑。横幅が広くて、背中にはどでかい戦斧を背負っている。

 斧戦士さんだ。

 

「……ドーガ、です」

「……………あ、どうも、ルーデウス・グレイラットです」

 

 ドーガという名前らしい。

 斧戦士ではなく、鎧騎士さんだったようだ。

 しかし、名前も体つきもゴツいが、顔つきはどこか朴訥としている。

 無口だけど、気は優しくて力持ち、って感じだ。

 年齢は20代……いや、もしかすると10代もありえる。

 

 シャンドルの方は、黄土色のナイスミドル。

 彼も横幅も広い方だが、ドーガと並ぶとひょろ長く見える。

 どっかの城のボス戦で二人同時に出てきそうなコンビだ。

 

「さて、なんなりとお申し付けください。私はなんでもできますよ」

「え、うーん……」

 

 せっかく来てもらってなんだが、何してもらおうか。

 妥当なのは、傭兵団チームに入る事か……?

 いや、ザノバにくっついてもらうのもいいな。

 でも、恐らく戦いになるんだよな。

 

「……シャンドルさんって、戦える方ですか?」

「ええ。もちろん。アスラ王国の騎士団の中では、一番強いですよ」

 

 一番か。

 でも、その騎士団の中に、ギレーヌやイゾルテは含まれてないんだろうなぁ……。

 

「多分、列強クラスと戦いになりますけど、大丈夫です?」

「大丈夫です。アリエル陛下に仕えると決めた時から、命を捨てる覚悟はできています」

 

 うーん……なら、いいか。

 アリエルも使い捨てるつもりで送ったのかもしれない。

 ザノバにくっついていてもらおう。

 

 ……いやまて。

 ちょっとおかしくないか?

 連絡したのは今さっきだぞ?

 いくらアリエルの仕事が早いと入っても、早すぎないか?

 タイミングが良すぎるのもあるし。

 実はヒトガミの――。

 

「お前か」

 

 ふと振り返ると、そこにオルステッドがいた。

 彼を見て、シャンドルは頭を下げた。

 

「どうも、龍神オルステッド様。初めまして。アリエル陛下からお聞きしていたより、呪いが抑えられているようで、なによりです」

 

 ふと見ると、エルフ子ちゃんが、感激したように両手を組んで、オルステッドを見あげていた。

 なんだろう……。

 もしかして、初めて見たって事はあるまいな。

 ヘルメット装着中ってのもあるが、呪いの方は意外と大丈夫だったのだろうか。

 いや、そんなのよりシャンドルだ。

 

「今はアリエルに仕えているのか?」

「はい。こちらに証明書もございます」

 

 彼はそう言いつつ、懐から書状を取り出し、見せてくれた。

 そこには確かに『シャンドル・フォン・グランドールをアスラ王国黄金騎士団長に任命する』、と書かれている。

 アリエルの直筆サイン入りと、アスラ王国の紋章入りだ。

 わざわざ持ってきたんだろうか。

 なんか逆に胡散臭く感じるのは、さっき疑ったせいだろうか。

 

「お前たちは、ルーデウスについて行動しろ。お前たちはギースに顔が割れていないはずだ」

「承知いたしました」

「ルーデウス、いいな?」

「え? あ、はい」

 

 唐突に出てきて、唐突に決められた。

 まぁ、オルステッドがそうしろと言うのなら、いいけど……。

 

「あ、いや、良くないです。ちょっと待ってください。唐突に決められても困ります。大体、この方は何者なんですか?」

「ああ、こいつは――」

 

 オルステッドはそこで口をつぐんだ。

 見ると、シャンドルが口元に指を当てていた。

 

「ご存知ないなら、ご存知ない方がいいのではないですか。

 今の私はアリエル様の騎士にして、これからの私はルーデウス様の小間使いです」

 

 そうおっしゃるという事は、さては有名人だな。

 誰だろう。

 列強って感じはしないな。弱そうだし。

 オルステッドが知ってそうな有名人……例えば龍族つながりで、聖龍帝シラードと、冥龍王マクスウェルとか。

 あ、でも銀髪じゃないしな。

 髪ぐらい染められるか?

 

「大丈夫なんですか?」

「この男なら、問題ない。俺もお前を一人で行動させることは不安だった。だが、こいつなら適任だ。使徒である可能性も低く、情報収集も得意だろう」

 

 オルステッドが自信を持ってそう言うなら、信じていいのだろうか。

 出てきたのが唐突すぎて、判別しにくい。

 

「お任せください」

 

 ひとまず、情報収集が出来るヤツ、ってことは、そっち方面での有名人かな?

 オルステッドが彼のことを知っているのは当然として、知られている事を当然のように受け止めている感じ、情報を扱っている人間っぽさがある。

 俺も一人で行動するのは不安だった。とはいえ、知らない人と一緒に行動するのも不安だ。

 

 でも、オルステッドが信用する人物なら疑う必要はない、かな?

 アリエルの送り込んだ援軍でもあるし。

 うーん……。

 

 オルステッドは、ちょうど良いとばかりに発言した。

 てことは、この男の能力は高く、安全性は高い。

 そう判断したってことだ。

 

 アリエルも、この男を小間使いとしてよこした。

 彼女は俺の状況を知っている。

 その上で、さしあたっての援軍としてよこした。

 少なくとも、転移魔法陣を使わせるぐらいには、信用をおいている。

 

 なら、今はオルステッドとアリエルの判断力を信じてみるか。

 

「わかりました、では会議に参加してください。といっても、もう終わりかけでしたがね」

「了解しました」

 

 ひと通り作戦説明が終わったら、アリエルにもこの二人のことを聞いておこう。

 そう思いつつ、俺は正体不明の二人を会議室へと誘うのであった。