無職転生 - 異世界行ったら本気だす -

第三十話「順調な滑り出し」

 翌日。

 冒険者ギルドに顔を出すと、トカゲ男が声を掛けてきた。

 

「あ、どうも。ランクアップは済ませておきました」

 

 誰だこいつ。

 と一瞬思ったが、隣に虫っぽい目をした女が立っていて、

 ようやく昨日のペット誘拐犯だと気付いた。

 確か、ジャリルとヴェスケルだったか。

 どうにも、顔の区別がつきにくい。

 トカゲ顔はこの町に結構多いからな。

 

 わからなかった理由は、服装の違いにもあった。

 昨日は町人Aという感じの何の変哲もない布の服を着ていたが、

 今は冒険者Aという感じの何の変哲もない皮の鎧を着ている。

 どちらも何の変哲もないわけだが、

 受ける印象はガラリと変わった。

 

「ああ、ジャリルさん。ご苦労様です」

「な、なんだ、その喋り方、気持ち悪いな……」

「敬語です。いけませんか?」

「い、いや」

 

 ひと睨みすると、ジャリルは視線をそらした。

 

「ヴェスケルさんも、今日からよろしくお願いします」

「あ……はい」

 

 ヴェスケルは、相変わらずルイジェルドに怯えていた。

 ルイジェルドは、相変わらず彼らを睨んでいる。

 ま、仕方あるまい。

 

 ちなみに、彼女も冒険者ルックだ。

 

「じゃあ、中に入りましょうか」

「あ、ああ」

 

 ジャリルは不安そうにしつつも、俺の言葉に頷いた。

 

 

---

 

 

 冒険者ギルドに入ると、目ざとく俺たちを見つけた馬面がよってきた。

 

「よう!」

「…………うっす」

 

 こいつ、今日もギルドにいるのか……。

 ほんと、何の仕事をしているんだろう。

 

「おっと、今日は『ピーハンター』と一緒なのか」

「よ、よう、ノコパラ。久しぶりだな」

 

 どうやら、馬面とトカゲ頭は知り合いらしい。

 

「おう久しぶり。聞いたぜジャリル。ランクをCに上げたんだってな。

 大丈夫かぁ? Cランクじゃペット探しはできねえぞ?」

 

 ノコパラはそこまで言ってから、

 俺たちと、ジャリルを見比べる。

 そして、馬面をヒヒンといななかせた。

 

「なるほどな。どおりでペット探しがはええと思ったぜ。

 昨日の依頼、『ピーハンター』に手伝ってもらったんだろ?」

 

 ピーハンターはジャリルたちのパーティ名らしい。

 なるほど。

 丁度いい。

 

「そうなんですよ!

 昨日、ペットを探していたら知り合いまして!

 ノウハウを教えてくれるっていうんです!」

 

 そんな嘘を適当にぶちあげる、

 

「ハッハー、臆病者のジャリルもついに弟子をもったか!

 しかも偽のスペルド族、ぷくく……!」

 

 と、いい具合に勘違いしてくれた。

 こいつ、チョロいな。

 

 馬面はひとしきり笑った後、ふとジャリルの後ろを見た。

 

「そういや、ロウマンの姿が見えねえな。どうしたんだ?」

「あ、ああ……ロウマンは……死んじまった」

「そっか。そりゃ残念だったな」

 

 ロウマンというのは、昨日ルイジェルドが殺した人の名前だろう。

 そいつの死を聞いても、ノコパラはあっさりとしたものだった。

 冒険者の中では、人が死ぬのはそれほど大した事件ではないのかもしれない。

 気にしていたのは俺だけなんだろうか。

 そういえば、ジャリルとヴェスケルも、ロウマンとやらを殺した事に関しては、別段気にしていない感じだった。

 

「でも、ロウマンが死んだのに、なんでランク上げたんだ?

 おまえらのパーティだと、あいつが一番強かっただろ?」

「そ、それは」

 

 ジャリルはちらりと俺を見てくる。

 ノコパラはヒヒーンと、いやハハーンと頷いた。

 

「あーあー。わかった。言わなくてもいい。

 そうだなー。弟子の前なら、ちょっとでもでかい顔してえよな!」

 

 ノコパラは一人で勝手に納得すると、

 ジャリルの背中をぽんぽんと叩いて、ギルド内へと戻っていった。

 

 ジャリルはほっと一息。

 

 しかし、なんなんだろうなアイツ。

 いっつも絡んできやがって。

 もしかして、俺のこと好きなのか……。

 いや、あいつの目はどちらかというとルイジェルドを見ている。

 つまり……。

 いや、冗談だけど。

 

「さて、依頼をみてみましょうか」

 

 ギルドに入ると、俺たちに奇異の目線を向けてくるヤツもいる。

 今のところは無視だ。

 

 一応、弟子っぽく振舞ったほうがいいかと思い、あれこれと聞きながら、

 ジャリルと共にD~Bにかけての依頼を見ていく。

 

「採取と収集というのはどう違うんですか?」

「え? あ、ああ。採取は植物が相手で、収集というのは魔物相手が多いかな……」

 

 ジャリル先輩の曖昧な答え。

 

 でも確かに、そんな感じだ。

 生物相手なら収集、そうでないなら採取。

 

 例えば、収集なら以下のような依頼になる。

 

=========================

C

・仕事:毛皮収集

・報酬:屑鉄銭6枚

・仕事内容:パクスコヨーテの毛皮20枚。

・場所:町外

・期間:特に無し

・期限:特に無し

・依頼主の名前:冒険者ギルド

・備考:毛皮が足りません。ご協力ください。この依頼は剥がさず、収集したものをカウンターにそのままお持ちください。

=========================

 

 読んでいて思い出したが、

 商人に買い取ってもらったのは屑鉄銭4枚だった。

 大分ボられてたんだな……。

 

 いや、これは依頼だから特別高いだけで、

 普段の買取ではあんなものなのかもしれない。

 

「ルイジェルドさん」

「なんだ?」

「申し訳ありませんが、しばらくは金を貯めながらランクをあげようとおもいます」

「……なぜ俺にいう?」

「例の件が後回しになるからです」

 

 ジャリルとヴェスケルには名前を売れと言い含んであるが、

 あまり期待はしていない。

 

 慇懃な態度で依頼を受けさせる、という案も思いついたが、

 基本的にヤツラの行動についてはノータッチで行くつもりだ。

 

 ノータッチなら、彼らが何をしても知らぬ存ぜぬで通せる。

 

 もし仮に奴らの犯罪行為が見つかったとして、

 もし仮に奴らがそれをルイジェルドにやらせられたと主張しても、

 冒険者ランクは彼らのほうが圧倒的に上だし、

 ルイジェルドはすでに偽物だと知れ渡っている。

 奴らが笑われるだけだ。

 

「なるほど、わかった」

 

 ルイジェルドの了承を得てから、

 俺はジャリルと相談しつつ、いくつかの依頼を受けた。

 

 

---

 

 

 門番に挨拶をして、町の外へと出ていく。

 

 パクスコヨーテ、

 アシッドウルフ、

 大王陸亀(グレートトータス)、

 巨岩石亀《ジャイアントロックタートル》。

 この町の周辺では、このへんが狙い目だそうだ。

 

 パクスコヨーテは毛皮、アシッドウルフは牙と尻尾。

 大王陸亀(グレートトータス)は肉で、巨岩石亀《ジャイアントロックタートル》からは魔石が取れる。

 

 とりあえず、大王陸亀は今回は無視。

 肉は重いしな。

 

 一番の狙いは巨岩石亀だ。

 魔石は小さくてもそこそこの値段で買い取ってもらえる。

 大きさに対する値段の効率がいいのだ。

 なるべくなら換金効率のいい巨岩石亀を狙いたい所だが、

 数は少なく、人里に近い所にもいない。

 

 結果として群れていて1回の戦闘で数を稼ぎやすい、パクスコヨーテが中心となる。

 

 というわけで、

 今回、俺が受けた依頼もパクスコヨーテの毛皮収集だ。

 もっとも、1回で数匹分を稼げるというだけだ。

 索敵と剥ぎ取りの時間を考えれば、アシッドウルフも大差はない。

 

 なので、アシッドウルフも見かけたら狩っておくつもりだ。

 こっちは依頼を受けてはいないが、

 収集は依頼を受けるより先に現物を集めてもいい。

 依頼が受けられてしまったのなら、買取カウンターに持っていくだけだ。

 

 

 パクスコヨーテの群れは、多くても精々10匹。

 索敵と剥ぎ取りの時間を考えると、

 一日に狩れる数はそう多くはない。

 

 と、最初は思っていた。

 

 最初のパクスコヨーテの一群を倒し、その毛皮を剥ぎ取る。

 すると、ルイジェルドは死体を一箇所に集めだした。

 何をしているんだと疑問に思っていたが、

 

「風の魔術で、血の匂いを飛ばせるか?」

 

 という言葉で納得いった。 

 

 血の匂いでおびき寄せるわけだ。

 言われるがまま、風に使い、風向きをあちこちへと変える。

 

「巨岩石亀は狩れんが、周囲のパクスコヨーテが集まってくるぞ」

 

 言うとおりになった。

 

 

 その日、俺たちは100匹以上のパクスコヨーテを狩った。

 この周辺のパクスコヨーテは狩り尽くしたかもしれないと思えるほどだ。

 ま、そんなはずはないんだが。

 

 しかし、大変だった。

 寄ってくるパクスコヨーテ、

 それらを狩り続けるルイジェルドとエリス。

 

 そして、ひたすら死体から皮を剥ぎ取り続ける俺。

 

 重労働だ。

 30匹を超えたあたりから、俺の腕は鉛のように重くなった。

 肩は痛くなり、血の匂いで吐きそうになった。

 

 倒せば宝石に変身するようになれば楽なのに……。

 そう思いながらも、何とか頑張った。

 

 70匹ぐらいで限界がきた。

 エリスと交代。

 

 パクスコヨーテを魔術で殺す作業は、剥ぎ取りよりずっと楽だった。

 爆散させたり、毛皮に必要以上の傷を付けないように、

 少しずつ魔術の威力を調整しながら、一匹ずつ丁寧に殺していく。

 やはり俺はこういう頭脳労働の方がいい。

 

 30匹ぐらいでエリスが音を上げた。

 やはり、彼女は肩の凝る作業は苦手らしい。

 

 次はルイジェルドが剥ぎ取りか、と思ったが、

 すでに十分すぎるほどの毛皮が手に入っていた。

 一度では運びきれなかったので、町を往復して運ぶ。

 

「待て。その前に、死体は焼いておけ」

 

 と、運ぶ前に、ルイジェルドはそう言った。

 

「焼く? 食べるんですか?」

「いや、パクスコヨーテは不味い。焼いて埋めるだけでいい」

 

 死体を放置しておくと、別の魔物が食って増える。

 焼くだけでも、他の魔物が食ってしまう。

 また、死体をそのまま地中深くに埋めるとゾンビコヨーテとして復活するらしい。

 

 それらを阻止するために焼いて埋めるという手順を踏む必要があるのだとか。

 

 毛皮だけを綺麗に剥ぎ取る→あえてゾンビコヨーテを作る→ギルドで討伐依頼が出る→討伐。

 という黄金連携を思いついたが、ルイジェルドに止められた。

 

 わざと魔物を増やすような行為は禁忌であるとされているらしい。

 そういうローカルルールはどこかに書いておいて欲しいものだ。

 

「でも、旅の途中ではそんなことしていませんでしたよね?」

「数匹程度なら問題ない」

 

 という事らしい。

 どれぐらいがボーダーになるかは分からないが、

 この量の死体は疫病の元とかにもなるからな。

 特に断る理由もない。

 俺は死体をキッチリ消し炭にしておいた。

 

 

 全てを運び終えた頃には、日が落ち始めていた。

 今日の狩りはこれで終了だ。

 

 今日はよく働いた。

 はやく宿に帰って休みたい。

 だが、あの延々と続く剥ぎ取り作業を明日もやるのか。

 

 明日あたりはゆっくり休みたい所だが……。

 

「今日は一杯儲かったわね! 明日もこの調子でいくわよ!」

 

 エリスは元気一杯だ。

 そんなエリスの手前、弱音を吐くわけにもいかない。

 

 

---

 

 

 三日後。

 『デッドエンド』はEランクに上がった。

 早いもんだ。

 

「お疲れ様です」

 

 ジャリルにねぎらいの声を掛けつつ、

 本日狩ってきた分の金銭の1割を彼らに渡す。

 

「あ、ありがとうよ」

 

 決して多くはない金額だと思う。

 しかし、こんな金額で彼らは暮らしていけているのだろうか。

 そう聞いてみると、彼は冒険者とは別に、この町で仕事を持っているらしい。

 

「どんな仕事を?」

「ペット屋だ」

 

 なるほど、売りつけたペットをさらうわけか。

 まさに悪徳商人だと思った。

 

「あんまり悪いことはするなよ」

「わかっているよ」

 

 そもそも、彼の営むペットショップというのは、

 町中にいる野良の動物を捕まえ、

 多少の訓練を施してペット化する仕事らしい。

 

 彼の種族、ルゴニア族は獣を調教するのが得意な種族であるらしい。

 その調教術は、それはもう古来より伝統として受け継がれており、

 そこらの野良犬から、果ては誇り高き獣族の女戦士まで、

 どんな相手でも屈服させることができるのだとか。

 

 いやはや、まったくしょうがない種族だと思う。

 もし、エリスとルイジェルドがその場にいなければ、

 俺も黙ってはいない所だった。

 是非ともご教授下さい、と頭を擦りつけて弟子入りしただろう。

 

 

 それはさておき、

 ペット屋というのは、害獣駆除を兼ね備えた素晴らしい仕事、だそうだ。

 冒険者ギルドの方は、それこそ副業みたいなものだろう。

 

「そんな素晴らしい仕事をしてるのに、なんでペットを攫っちゃうんですか……」

「最初は保護してただけなんだ。けど、魔が差してな」

 

 魔がさして、味をしめて、ああなったというわけか。

 

「しかし、ペットショップと冒険者の両立は大変でしょう?」

「そうでもないさ。ペットのストックはまだあるからな」

 

 店を開けているのは昼下がりまでで、

 そこから夜にかけて依頼を行うのが、彼のスタイルらしい。

 

「まあ、僕らとしては、きちんと依頼さえこなしてくれれば文句はありませんがね」

「そっちはまかせてくれ、俺たちも冒険者の端くれだからな。

 デッドエンドの名前も、ちゃんと売っている」

 

 本当かねえ。

 

 

---

 

 

 現在の所持金。

 鉄銭6枚、屑鉄銭8枚、石銭5。

 

 金に余裕もできたので、普段着と防具を買うことにした。

 

 

 まず、適当にそこらの行商から服を購入。

 

 エリスの買い物は早い。

 彼女は、軽くて動きやすくて丈夫なもの、を基準にしている。

 スカートの類は一着もなく、全て長ズボンだ。

 最近の若者向けの言い方をするとパンツだが、

 そんなオシャレな感じじゃないズボンだ。

 

 状況がよくわかっているチョイスだと思う。

 けど、もっと女の子らしいものを一着ぐらい、と思ってしまう。

 

 なので、店の端の方にあった、

 ピンク色のヒラヒラしたワンピースを薦めてみると、

 彼女はあからさまに嫌そうな顔をした。

 

「……私にそんなの着て欲しいの?」

「一着ぐらいはあってもいいんじゃないですか?」

「じゃあルーデウスも男らしいのを買いなさいよ」

 

 と、山賊の着るような毛皮のベストを押し付けられそうになった。

 俺がこれを着ると、エリスがひらひらのワンピースを着る。

 それならそれでもいいかな、と一瞬思ったが、

 二人が並んだ姿を想像して、諦めた。

 

 

 服を購入後、防具屋へと赴いた。

 

 今のところ、エリスもルイジェルドも大した怪我をしたことはない。

 俺が治癒魔術を使えるから、多少の怪我ならすぐ治る。

 

 だから防具はいらないんじゃないか、と聞くと。

 ルイジェルド曰く「あったほうがいい」とのこと。

 

 俺の治癒魔術では、致命傷や部位欠損は治せない。

 そして、エリスはまだ実戦経験が浅い。

 慣れや油断から致命傷を受けることもある。

 

 なので防具は必要である。らしい。

 ここは、ルイジェルドの言葉に素直に従う。

 

 防具屋は、中々立派な店構えをしていた。

 といっても、アスラで見た店とは大きく違う。

 アスラの店より無骨な感じだ。

 

 店に入ると、行商より若干高い品物が並んでいた。

 行商の方が値段は安く、たまに掘り出し物もあるのだが、

 店を構えている所の方が品質が安定し、品揃えもいい。

 そして、サイズが揃っているのも大きい。俺たちは子供サイズだからな。

 

 現在、俺たちはエリスの胸当てを選んでいる。

 女性用の胸当ては、バストサイズによって結構色々ある。

 

「心臓を守る防具ですから、なるべくいいのを……」

「これでいいわ」

 

 エリスは自分にぴったりサイズの皮の胸当てを試着して「どう?」と聞いてきた。

 胸を凝視できる機会を逃す俺ではない。

 ……ふむ。

 成長は順調な感じだ。

 

「もうワンサイズ大きい方がいいですね」

「なんでよ」

 

 なんでって?

 

「僕らは成長期なので、ピッタリだとすぐ合わなくなります」

 

 そういいながら、次のサイズをエリスに渡す。

 

「ぶかぶかじゃない」

「大丈夫、大丈夫」

 

 エリスはブツブツ言いながら、各部位を守る装備を買っていく。

 最近の戦いで、怪我しやすい場所は彼女もわかっている。

 

 各種関節と急所は守るとして、頭はどうするべきか。

 重くなりすぎるとスピードが殺される。

 とはいえ、頭も急所だ。

 何か身に着けておいた方がいいだろう。

 

「こういう兜はどうでしょう」

 

 と、世紀末覇王の弟のようなフルフェイスメットを提示。

 エリスは露骨に嫌そうな顔をした。

 

「カッコ悪い」

 

 一蹴。

 最近の若者にこのセンスはわからんらしい。

 

 その後、幾つかの兜を被せてみたが、

 重い、ダサい、臭い、視界が狭い。

 等の理由で、結局は鉢巻のようなものに落ち着いた。

 

 鉄板が縫い込まれているものだ。

 鉢金というんだったか。

 

 ちなみに、フードは目立つ赤髪を隠すために被っているだけで、

 防具としてはあまり意味を為していない。

 

「こんなものね。どうルーデウス! 冒険者に見える?」

 

 ロインにもらったカトラス風の剣を腰に、軽装の冒険者の格好をしてエリスはくるりと回る。

 正直、コスプレみたいだ。

 胸当てのサイズが合ってないのが、特に

 

「よくお似合いですよ。お嬢様。どこからどう見ても歴戦の戦士です」

「そう? むふふ」

 

 エリスは腰に手を当てて、自分を見下ろしながら、にまにまと笑った。

 

 俺はエリスがニマっている間に、装備を一式、鉄銭1枚まで値切った。

 さすがに、一式となると高いな。

 

「次はルーデウスね!」

「僕はいらないんじゃないですか?」

「ダメよ! ローブ買いましょう! ローブ! 魔法使いっぽいの!」

 

 自分は剣士で、幼馴染の魔法使いと一緒に冒険。

 エリスはそういう冒険者に憧れていたようだ。

 夜は眠れない日もあるみたいだが、昼間のエリスは実に図太い。

 まあいいか。

 付き合ってやろう。

 

「おじさん、僕の体に会うローブってありますか?」

 

 と聞くと、防具屋のオヤジは無言で棚の一つを開けてくれた。

 

「小人族(ホビット)用だ」

 

 そこには、色とりどりのローブ。

 どれも微妙にデザインが違う。

 色は5色。赤、黄、青、緑、灰。

 かなり淡い色だ。

 

「色が違うと何か違うんですか?」

「布に魔物の毛が織り込んである。耐性がちょっと付いてる」

「赤は火、黄は土……灰色は?」

「ただの布だ」

 

 なるほど。

 だから灰色だけ半額なのか。

 他の色もちょっとずつ値段が違う。材料の問題だろうか。

 

「ルーデウスは青色よね!」

「どうでしょうね……」

 

 近距離戦だと爆風で自分を吹っ飛ばすとかやるしな。

 赤か緑の方がいいかもしれない。

 きつねか、たぬきか。

 

「坊主、どんな魔術使うんだ?」

「攻撃魔術を全種類使えますよ」

「へぇ。すげえな。若そうに見えるのに……じゃあ、ちょっと値は張るが」

 

 と、オヤジが取り出したのは、ちょっと濃い目の灰色だ。

 ねずみ色という感じ。

 

「マッキーラットの皮で作ってある」

「○ッキーマウス?」

「マウスじゃねえ、ラットだ」

 

 俺の脳裏には、赤い半ズボンをはいた黒いアイツが浮かんでいた。

 ぶんぶんと振り払う。

 それは危険だ。

 

 手にした感じは布のようだが、そういう生き物なのだろうか。

 

「これにはどんな効果が?」

「魔力耐性はねえが、丈夫だ」

 

 試着してみる。

 

「ブカブカですね。もっと小さいのは無いんですか?」

「それが一番小さい」

「子供用のがあるでしょう?」

「そんなものは無い」

 

 なんて、ノーマルスーツを初めて着用した柔道家みたいな会話をしつつ。

 

 まあ、体の方は成長期だから、これでいいのかもしれない。

 生地もいい。丈夫という言葉通り、防刃性もちょっとはありそうだ。

 それに、ネズミ色ってのもいいな。

 名は体を表すって言うし。

 

「ま、これにしときましょうか」

「気に入ったか? 屑鉄銭8枚だ」

「じゃあそれを……」

 

 可能な限り値切って、屑鉄銭6枚で購入した。

 

 ついでに、エリスと色違いの鉢金をもう二つ購入。

 俺とルイジェルド用である。

 いざという時に、ルイジェルドの額の宝石を隠せるように。

 

 なんで俺の分も買ったのかって?

 仲間ハズレは嫌じゃん。

 

 

---

 

 

 俺たちが買物をしている間、

 ルイジェルドはヴェスケルを監視しに行ってもらっていた。

 

 彼らには期待しているわけではないが、

 彼らの働き次第では、俺たちの評判は地に落ちる可能性もある。

 なので、ルイジェルドを偵察に送り込んだ。

 

 そんなに心配なら、最初からあんな奴らと手を組まなければいい、と言われた。

 仰るとおりだ。

 しかし、そのお陰で、金銭的に余裕ができた。

 今のところはどっこいどっこいだろう。

 

 

 結論から言うと、彼らはしっかり働いていたらしい。

 Fランクの仕事だが、嫌がらずに、献身的に。

 

 ヴェスケルは本日、害虫駆除の依頼を受けていた。

 台所に生息する憎きあいつを退治する依頼だ。

 

 彼女の種族はズメバ族といって、唾液に毒性がある。

 その唾液には、誘引力がある。

 唾液を摂取した虫は死亡、あるいは麻痺で動けなくなり、ズメバ族の餌となる。

 つまり、害虫駆除は彼女の十八番である。

 

 依頼主は老婆だった。

 実に偏屈そうで、口をへの字に結んでいる老婆だ。

 ちょっとでも気に食わない事があれば叩き出す。

 そんな気配をルイジェルドは老婆から感じ取ったらしい。

 

 だが、ヴェスケルは特に衝突する事もなく、迅速に害虫を全滅させたらしい。

 ルイジェルドが確認した所、本当に家の中から一匹もいなくなったらしい。

 

 その後、彼女は家中の隙間を何やら糸のようなもので埋め、侵入経路を塞いだ。

 

「ありがとうよヴェスケル。困ってたんだ」

「いいえ。何かあればまた『デッドエンドのルイジェルド』にお任せください」

「『デッドエンドのルイジェルド』?

 それが今のパーティ名かい?」

「そのようなものです」

 

 ヴェスケルは、そんな会話をし、

 

「また出たら、これを使って」

 

 最後に唾液から作った餌を数個渡して、老婆と別れた。

 依頼完了。

 冒険者ギルドで俺たちと落ち合い、報酬を受け取った。

 

 

 

「聞く限り、しっかり働いていますね」

「……ああ」

 

 俺が思っていた以上に、彼女の仕事は完璧だ。

 老婆とも知り合いのようだし、アフターケアもできている。

 行き当たりばったりで猿真似をした俺より、よほど心象がいいだろう。

 

「彼らは根っからの悪党ってわけじゃないみたいですね」

「そうだな」

 

 まあ、俺も疑っていたわけだが。

 いつもやっている事に加えてデッドエンドを名乗るだけなら、彼らの負担もないだろう。

 楽して金を儲けている、という意識を持って貰えるのは悪くない。

 裏切る可能性も低くなるからな。

 

「悪事を働いたという事実は消せん」

「でも、今は頑張っています。ルイジェルドさんと同じようにね」

「む……」

 

 犯罪者だって悪いことばっかりやってるわけじゃないのさ。

 彼ら然り、俺然り、ルイジェルド然り、だ。

 

 別にやるなと言ったわけじゃないのに、ペット誘拐もしてないしな。

 まあ、まだ三日だ。

 悪事がバレて死にそうな目にあった記憶が薄れるには早い。

 

「もっとも、殊勝なのは今のうちだけかもしれません。

 今後も事ある毎に監視した方がいいでしょうね」

 

 そう言うと、ルイジェルドは眉をひそめた。

 

「お前は……手を組んだ相手を信用していないのか?」

「当たり前です。

 僕がこの町で信用してるのは、エリスとルイジェルドさんの二人だけですよ」

「……そうか」

 

 ルイジェルドが俺の頭に手を伸ばそうとして、やめた。

 

 俺はルイジェルドを信用しているが、

 ルイジェルドからの信用は、なくなっているように感じる。

 

 まあ、今はそれでもいいさ。

 俺の目的はエリスと一緒にアスラ王国に帰ることだ。

 ついでにスペルド族の名誉回復もするが、

 ルイジェルドに信用されることは目的にはない。

 

「行きましょうか」

 

 俺たちは魔照石の光の中を、ゆっくりと宿に向かって歩き出した。

 

 

---

 

 

 冒険者生活の滑り出しは順調であったと言える。