無職転生 - 異世界行ったら本気だす -

第五十二話「米」

 翌日。

 酒場にて朝食を取りつつ、俺は二人に宣言した。

 

「道中での捜索を短めに終わらせて、シーローン王国に立ち寄ります」

 

 二人は、首をかしげつつも、頷いた。

 

「わかったわ」

「了解した」

 

 どうして、とか、なんで、などとは聞いてこない。

 理由を聞かれないのは、俺としてもありがたい。

 人神の事はなるべく喋らない方向でいく。

 そう決めてはみたものの、

 しかし、人神のことを喋らずどうやって説明したものか、頭を悩ませていたのだ。

 

 ルイジェルドは、昨晩の俺の様子を見て、何か思う所があるようだ。

 恐らく、隠し事をしていることに気付いているだろう。

 病気を隠しているとか見当違いの方向かもしれないが、

 いや、人神は病魔のようなものだ、あながち間違ってはいない。

 エリスはというと。

 

「シーローンってあそこよね、ルーデウスの師匠がいるっていう」

 

 エリスのそんな言葉で、俺は一人の少女の姿を思い浮かべた。

 ロキシー・ミグルディア。

 そう。

 シーローンには彼女がいるはずだ。

 人神も知り合いに手紙を出せと言っていた。

 最初は誰かと思ったが、俺が手紙を出す相手と言えば、一人しかいない。

 彼女に助力を願え、ということだろう。

 ロキシーは頼りになる人だ。

 人神もたまには粋な提案をする。

 

「はい。僕の尊敬する……先生です」

 

 師匠です、と言おうとして、俺は言葉を変えた。

 そういえば、師匠と呼ぶことは禁止されていたのだった。

 最近は、師匠が凄い、師匠が凄いと色んな人に言っていたが……。

 まあいいか。

 

「そう、ルーデウスの尊敬する人なら、立ち寄って会っておくべきよね。

 何か力になってくれるかもしれないし」

 

 エリスはそう言って、一人でうんうんと納得していた。

 

 ロキシー。

 優秀な彼女なら、強い力になってくれる。それは間違いない。

 とはいえ、ロキシーも宮廷魔術師だ。

 忙しいだろうから、あまり世話を掛けたくない。

 ただでさえ、世話になりっぱなしだし、生徒として情けない所も見せたくない。

 

 もっとも災害や捜索という建前を抜きにしても、

 会いたいという気持ちは変わらない。

 魔神語辞典のお礼も言いたい。

 あれがなければ、俺はまだ魔大陸にいたかもしれない。

 転移で失われてしまったのが悔やまれる。

 あれは写本して全世界にて販売すべきものだった。

 

「ルーデウスの先生、会ってみたいわね」

「ふむ、俺も興味があるな」

 

 エリスとルイジェルドも興味を示したらしい。

 旅の最中でも、時折ロキシーの名前を出して絶賛していたからだろうか。

 ロキシーはどこに出しても恥ずかしくない自慢の先生だ。当然だろう。

 

「では、シーローン王国に到着したら紹介しますよ」

 

 そんな約束をしつつ、俺たちは旅だった。

 

 

---

 

 

 まずは街道沿いに進み、王竜王国の首都ワイバーンを経由する。

 この首都から、王竜山を東西2ルートへの道が伸びている。

 まっすぐに北へと伸びていくルート。

 そして、西へと伸びていくルート。

 当然ながら、俺たちは北へのルートを選択する。

 

 首都ワイバーンには、期せずして一週間ほど滞在することになった。

 当初の予定では3日ほどで立つ予定だったのだが、

 買ったばかりの馬車の調子が悪く、修理に時間を要したのだ。

 やはり中古の安物はよくない。

 

 石や鉄で作られたものなら俺でも多少はなんとかなるが、

 木材を魔力でどうこうすることは出来ない。

 修理工にはやや多めに金を渡し、早めになおしてもらうことにした。

 

 焦りはない。

 人神に見せられた光景では、アイシャが二人の男に絡まれていた。

 心配はしているが、人神は、俺があの場に居合わせると言っていた。

 なら、あるいは馬車が壊れたこの事件は、運命操作的な何かの結果なのかもしれない。

 恐らく、急ぎすぎても、あの場面には遭遇できないのだ。

 

 心はなるべく平常心に。

 そう思いつつ、ワイバーンを見て回った。

 

 

 王竜王国は、この世界で三番目にでかい国だ。

 中央大陸南部の雄で、4つの属国を従えている。

 かつては、中央大陸南部に多数存在する国の一つだったらしいが、

 北西にある王竜山の王者、王竜王カジャクトを倒し、

 その縄張りにある膨大な鉱物資源を手に入れたことで、

 一気に強国へとのし上がった国だ。

 

 世界に散らばる48魔剣の発祥の地であり、

 北神英雄譚の一節にも語られる場所。

 数々の逸話がありつつも、伝統をそれほど重要視している感じはしない。

 アメリカのような、雑多な感じのする国だ。

 

 この町には、鍛冶場や剣術道場が多い。

 道場はチラリと覗いてみたが、子供相手に教えている所が多かった。

 道場主ですら上級という場合が多いようだ。

 エリスは一目みただけで大したことないわねと鼻で笑い、ルイジェルドにたしなめられていた。

 

 さて、そんな町にて行方不明者に関する情報収集をする。

 冒険者ギルドにはパウロの手先がいて、この国に大した情報が無いことを教えてくれた。

 やはり、もうこの時期になると、そうそう行方不明者が見つかるものではないらしい。

 

 その後、いつも通りの市場調査。

 ワイバーンは、中央大陸の特産物とミリス大陸の特産物の両方が売られている町だった。

 食材の幅が広い。

 

 そんな市場において。

 俺は、ようやく発見した。

 米が売っているのを目撃した。

 米、米である。

 やや黄色がかっているが、確かに米である。

 

 この国の店で出てくるのは、スプーンで食べやすいように作られたパエリアや粥のようなものだ。

 俺の求めるものとは少々違う。

 俺は白い飯が食いたい。

 無いなら、自分で作ろう、そう思い、衝動買い。

 俺に米を炊くスキルは無いが、そこは店の人に丁寧に聞いた。

 

 購入した3合程度の米、土魔術で丁寧に作ったはんごう。

 そして店の人に教わったレシピを元に、米を炊く。

 脇には、塩と卵が用意してある。

 

 真剣な顔ではんごうに火を掛けていると、

 途中、エリスが寄ってきた。

 

「何をしているのよ?」

「実験です」

「ふうん?」

 

 エリスは興味なさそうに言うと、俺のすぐ脇で素振りを始めた。

 チラチラとこちらを見ている。

 どうやら、興味があるらしい。

 

 俺は酒場の主人に借りてきた砂時計をひっくり返し、火力を強める。

 少しずつ火力を上げるのがコツだと、店の男は言っていた。

 

 砂時計を三回ほどひっくり返し、最後には火を弱める。

 そして、更に砂時計を2回。

 最後には火を止め、砂時計を2回。

 

「出来た」

「ほんと?」

 

 ぽつりとつぶやくと、エリスが素振りをやめて、俺のすぐとなりにしゃがみ込んだ。

 ふわりのエリスの匂いが漂う。

 いい匂いだ。

 だが、今は性欲より食欲だ。

 彼女はわくわくした表情ではんごうを見ている。

 俺もわくわくしながら、はんごうの蓋を開けた。

 

 むわりと香るゴハンの匂い。

 

「いい匂いね。さすがルーデウスね」

「味を見てみないと」

 

 俺はそうつぶやき、米を指でつまんで口に入れた。

 …………ふむ。

 

「45点」

 

 記憶にあるコシ○カリやササ○シキには遠く及ばない。

 現代日本でランク付けをしたとしても、Cランクにも及ぶまい。

 やはりこの国では米が主食ではないからだろうか。

 ボソボソとしていて、雑味が強い。

 色もやや黄色っぽい。

 俺の炊き方がヘタクソだったのもあるだろうが、素材も悪いのだ。

 ギンシャリなどとはとても呼べない。

 本当なら30点で赤点だが、久しぶりに食べた米はまずくはなかった。

 懐かしさで胸が一杯になった。

 それを加味して、15点プラスだ。甘いね俺も。

 

「これって、昨日の夜にも食べたわよね?

 どういう実験なの?」

「ここからが本番です」

 

 俺は土魔術で作ったどんぶりにご飯を盛る。

 そして、念入りに解毒魔術をかけた卵を溶く、そしてご飯の真ん中に穴を開け投入。

 その上から塩をパラパラとまぶす。

 土魔術で作った箸を構え、両手を合わせて。

 

「頂きます」

「え? ちょ、ルーデウス、その卵……生……」

 

 大きく口を開けて、黄色く染まった米をバクリ。

 うむ、生臭い。

 一応塩を掛けてみたものの、あまり変化は無いようだ。

 

 こうして食べてみると、卵自体も若干ながら味が違う。

 日本で食える生食用の新鮮なものとは違うのだろう。

 

 やはり醤油が必要だな。

 俺はこの世界で醤油を見つける事ができるのだろうか。

 あるいは代用品を見つけたい。

 などと思いつつ、一心不乱に飯をかっこむ。

 

「ハムッ、ハフハフ、ハフッ!!」

「……おいしいの?」

 

 エリスの問いに、俺は土魔術で2つ目の丼をつくりだした。

 そこにご飯をよそい、塩をパラパラと掛けてエリスに突き出す。

 ついでに、スプーンを作り、手渡す。

 まずは初心者用だ。

 

「……ねえ、これってこれだけなの?」

「…………こくり」

 

 俺は静かに頷いた。

 ご飯はご飯だけで食べる事ができる。だからこそ主食なのだ。

 自慢ではないが、生前の俺の全盛期には、山盛りご飯が主食。

 握り飯がオカズだった頃がある。

 白米さえあれば、どれだけでも食べる事が出来た時代だ。

 

「んー……」

 

 エリスはもそもそと微妙そうな顔で食べていた。

 彼女はまだまだ子供だな。

 だが、卵を掛けると、

 

「うん、さっきよりはいいわね」

 

 と、頬をもちゅもちゅさせながら、食べきってしまった。

 やはり卵掛けご飯は最強だ。

 完全食だからな。

 

 俺たちはそう言いつつご飯を完食し、

 最後におこげをパリパリと食って食事を終了した。

 

 一人、卵掛けご飯にありつけなかったルイジェルドは何の文句も言わなかった。

 ただ苦笑していた。

 彼は大人だと思う。

 だが、申し訳ない事をしたと思う。

 次回は彼にも食べさせてやろう。

 

 

---

 

 

 王竜王国から出立し、街道を北上する。

 シーローン王国にたどり着くまでにまたがっている国は二つ。

 サナキア王国とキッカ王国。

 どちらも王竜王国の属国のような立場である。

 

 サナキア王国では米の栽培が盛んだった。

 そういう風土なのか、街道を移動していると、一面の水田があった。

 このあたりは川が多く、気候も日本や東アジアに近いのかもしれない。

 食べてみると、王竜王国で食べたものと同じだった。

 どうやら、ここで作られたものが王竜王国の市場に輸出されているらしい。

 とりあえず、ここの米はサナキア米と呼ぶことにした。

 

 宿の食事は魚介系の炊き込みご飯が多く出てきた。

 この世界では節制を心がけている俺であったが、やはり米の魅力には逆らえない。

 今日もお腹は一杯。

 俺の一日はハッピーエンドである。

 

 最近、食事時になると、エリスがたまにポカンとした眼で俺を見ている。

 いつも食事時でもそれなりに小うるさい俺が無口で食べ続けているので、

 何か思う所があるのかもしれない。

 

「どうしました?」

「ルーデウスって、あんまり食べない方だと思ってたわ」

 

 エリスにそんな事を言われる。

 生前では小食なんて言われた事はない。

 あればあるだけ食べてお代わりを要求するスタイルだった。

 この世界にきてから節制できていたのは、食生活が合わなかったからだ。

 

 魔大陸における硬い肉中心の食事はさておき、

 アスラ王国におけるパン中心の食事も、少々もの足りないものだった。

 ゼニスの料理が悪いわけではないが、

 米の味というのは俺の求めてやまないものなのだ。

 

 うむ。やはり米はいい。

 

 

---

 

 

 食の探求だけでなく、冒険者ギルドにも顔をだす。

 

 さすが中央大陸というべきか。

 デッドエンドという名前を出しても、誰も驚きやしなかった。

 しいて言うなれば、

 アメリカで有名だからって日本にまで名前が知れ渡っているわけではないという感じだろうか。

 スー○ーマンを知っていても、キャプテンア○リカを知らない子供が多いようなものだ。

 

 とはいえ、彼らも冒険者だ。

 デッドエンドという単語を聞いたことぐらいはあるだろう。

 ただ、アメリカの有名人がふと日本に来たところで、コアなファン以外は誰も騒がないって事だ。

 

 スペルド族と知っても、それほど騒ぐ気配は無い。

 結局、大事なのは髪の色なのだろうか。

 

 この世界の差別は、現代日本のオタクに通じる所がある。

 スペルド族は緑髪じゃなきゃスペルド族じゃない、

 陸上部女子は黒髪ポニテじゃなきゃ陸上部じゃない、ってなもんだ。

 

 

 しかし、Aランクとなると、そこそこ注目されるらしい。

 

「よう、おめえら、見ない顔だな、

 Aランクたぁな。最近結成したのかい?」

 

 俺たちに話しかけてきたのは、

 ノコパラによく似た雰囲気をもつ男だった。

 経験上、こういう男とは仲良くしたくない。

 けど、邪険にしたら絡まれて面倒だ。

 適当にあしらうに限る。

 

「結成したのは2年前ですよ」

「へぇ、ここらじゃ聞かねえな。

 『デッドエンド』。確か、魔大陸の悪魔の名前だっけか?」

「ええ、魔大陸から旅してきたもので」

「ヘヘッ、またまた。そっちの男がその悪魔かい?」

「そうですが、あまり彼のことを悪魔と言わないでくれませんか?」

「なんでだ? そういう触れ込みじゃねえのか?」

「騒ぎになるので髪は剃ってますけど、本物ですから」

 

 またまた、と男は笑った。

 俺は真顔だった。

 エリスは若干キレそうだったし、ルイジェルドも不快そうだ。

 それを見て、男も冷や汗をかいていた。

 

「おい、まじなのか?」

「なんだったら、額の宝石も見せましょうか?」

「いや、いや、いい。悪かった。本物だとは思わなかった。いるとこにはいるんだな、スペルド族ってのは……」

 

 魔大陸にいるうちにAランクに上がれたのは良かった。

 ルイジェルドが本物のスペルド族だという信憑性に繋がっている。

 中央大陸は魔族への風当たりが強いのに、

 なぜか魔大陸よりスペルド族を恐れてはいない。

 危険が身近にあるかどうかって事だ。

 羆を安全だなどと言う人は、実際に山で羆に遭遇したことのない人なのだ。

 

 ネームバリューは使えなくなったが、

 しかし恐れられていないのであれば、人気回復の難易度も下がるだろう。

 先の見通しは明るい。

 とはいえ、なかなかいい案が浮かばないのも確かだ。

 ルイジェルドフィギュアも、ミリスの宗教圏にいるうちは受け取ってもらえないしな。

 

 などと考えていると、エリスが先ほどの男を睨みつけていた。

 

「エリス。喧嘩はやめてくださいね」

「わかってるわよ」

「ならいいです」

 

 エリスは最近、あまり絡まれなくなった。

 彼女はこの一年ぐらいで物腰がかなり鋭くなっている。

 素人臭さが抜けてきたのだ。

 パッと見ただけで危険だとわかる相手に、どうして絡む奴がいようか。

 

 また、冒険者流の冗談もなんとなくわかるようになってきたらしい。

 何かを言われても、それが前に聞いたことのあるようなフレーズと気づけば、

 不機嫌な顔をしつつも、それに対応したフレーズで返すだけの余裕が出てきた。

 それで相手が笑えば、エリスもドヤ顔で応じる。

 冒険者らしくなってきた。

 

 もっとも、売られた喧嘩を買わないというわけではない。

 エリスが若いのにAランクと見て、わりと本気で絡んでくる奴もいるのだ。

 そういうのは、Cランク程度の若いやつが多い。

 実力もないのに、ルイジェルドに引っ張ってもらったんだろ?

 というような感じで絡んできて、ワンパンで沈む。

 

 そういう奴は、大抵どこの冒険者ギルドにもいるらしい。

 バカな奴らだ。

 

 ちなみに、俺もよく絡まれるが、

 そーなんすよー、うちのダンナのおかげでウハウハっすよー、

 などと言って適当にあしらっている。

 

 実際、Aランクまで上がれたのはルイジェルドに頼った部分も大きいからな。

 エリスは俺のそういう態度が気に食わないようだが、

 一人ではAランクになどなれなかっただろう。

 

 謙虚になろうぜ。

 

 

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 更に北へと移動する。

 

 キッカ王国では、アブラナのような植物の栽培が盛んだった。

 街道からも、白っぽい花が一面に咲いている花畑が見える。

 

 ちなみに、この国でも米が主食だ。

 食べ比べてわかったが、どうやら北にいくほど米の質が上がっているようだ。

 これは、俺が一目惚れする米と出会う日も近いかもしれない。

 だが、残念ながら、現在中央大陸の北のほうでは、小国同士の小競り合いが続いている。

 そんな状態では、おいしい米を作ることなど出来ないだろう。

 実に残念だ。

 

 この国では、『ナナホシ焼き』と呼ばれる料理が流行していた。

 肉に麦粉や米粉で衣をつけて、高温の油で揚げる、というものだ。

 要するに唐揚げである。

 

 最近になって、アスラ王国の方で開発されて大流行、

 その煽りが流れてきたらしい。

 

 食用油が大量に取れる国以外では作りにくいらしいが、

 この国は油の生産量が多い。

 

 この国にきて知ったことだが、

 アブラナの栽培は王竜王国がキッカ王国相手に強制させている事業だそうだ。

 サナキア王国で水田が盛んなのも、王竜王国の指示だとか。

 属国も大変だ。

 

 ちなみにこの唐揚げも、少々味が悪い。

 肉にしても羊や豚だったりすることが多いし、

 油の温度が適切ではないのか、やや固かったりベチャっとしていたりする。

 下味もきちんとつけていない。

 もちろん、岩塩や乾燥ハーブ、この土地に伝わるソース等で味に変化を付けられてはいる。

 ゆえに、まずくは無い。

 むしろ、よくできていると褒めてもいい。

 食べる専門の俺でも工夫の程がわかるのだ。

 この国の料理人は頑張っている。

 

 だが、俺も渇望する味とはやや違う。

 やはり醤油が無いのがよくないのだ。

 下味には醤油とにんにく、生姜などを使い、甘辛く仕上げねば……。

 

「ルーデウス、最近食事の時間に難しい顔してるわね」

「奴は味にうるさいからな。思う所があるんだろう」

「十分おいしいと思うんだけど……」

 

 テーブルを囲む二人はそう言いつつ、むしゃむしゃと食べている。

 彼らは食に関してはうるさくない。

 俺だって、こんな所に来てまで美食な倶楽部の主宰者みたいな事は言わない。

 けれど、あと少し、あと少し醤油味があればと思わざるをえない。

 

「でも不思議な食感よね、カリカリしてて、噛んだらジュワッって溢れてきて」

「ああ、うまいな」

 

 おかわりを頼んでバクバクと食べる二人。

 彼らは幸せだ。

 はじめて食べた料理を、うまいと思って食べられるのだから。

 俺はこれ以上の味を知っているがゆえ、素直に喜ぶ事ができない。

 白米と醤油味の唐揚げ。

 そこに豆腐とワカメの味噌汁があれば、と渇望せざるをえないのだ。

 

 

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 飽くなき食への探求。

 もちろんその合間にも当然のように行方不明者の捜索をし、

 しかし当然のように何の情報も得られない日々が続いていた。

 

 

 そんな旅を続けつつ、四ヶ月。

 

 俺たちはシーローン王国へとたどり着いた。