「ギュルルルルル!」

 

 ポタルゲが前脚の鉤爪を振るい、倒れたままのイザベラを狙う。

 俺は素早く彼女の前に出て、盾の表面で鉤爪の攻撃を受け流した。

 だが、殺し切れなかった衝撃が響いてくる。

 

「ぐぅっ! 早く立て、イザベラ!」

 

 続くポタルゲの攻撃を、俺は剣で弾くように捌く。

 

「〈パリィ〉!」

 

 奴の鉤爪が、俺のすぐ横の床を抉る。

 この隙に反撃に出ようかと思ったが、俺の機動力では反撃が間に合わない。

 リーチが違い過ぎるのだ。

 

 スカルロードのときよりはレベル差は開いていないし、魔法型の分、攻撃力と素早さが控え目のためどうにか形にはなっているものの、それでもジリ貧だ。

 

「ク、クソ!」

 

 イザベラが立ち上がり、剣を構えてポタルゲへ接近した。

 ルーチェもまた、彼女の動きに合わせるようにポタルゲの足許へと駆けて、死角へ回り込もうとしていた。

 

「ギュウウウウ……!」

 

 ポタルゲの頭上に大きな魔法陣が展開される。

 次の瞬間、暴風が吹き荒れた。

 

「ぐっ! これは風魔法……〈ガスト〉か!」

 

 俺は吹き飛ばされそうになったが、背を丸め、床に刃を突き立ててその場に踏み止まった。

 

「ぐうっ!」

「きゃあっ!」

 

 だが、後方にいたスノウはどうにか耐えられていたものの、イザベラとルーチェは駄目だった。

 風に投げ出され、部屋の隅へと飛ばされていく。

 無理もない……重騎士の俺でさえ、どうにかその場に留まるのが限界なのだ。 

 

「接近した状況をリセットされた……!」

 

 これで時間が稼がれてる間に、またポタルゲが回復していく。

 その間、俺達ばかりが一方的にHPを消耗させられていく。

 勝ち筋があまりに細すぎる。

 

 ……現状、俺とイザベラが盾役になり、スノウが後方より魔法攻撃で気を逸らし、ルーチェが隙を潜って〈ダイススラスト〉を当てるしかない。

 ただ……この戦法で、タフなポタルゲ相手に押し切れる気が、俺にはどうにもしなかった。

 

 俺も〈死線の暴竜〉で一気に攻めるべきか?

 いや、盾役二人で気を引くのが現状精一杯だ。

 俺が攻撃に出ても、盾役が減った状態では、ルーチェも俺もまともに攻撃に出られなくなる。

 

 短期決戦を仕掛けるには、タフで立ち回りの堅いポタルゲ相手には苦しい。

 倒し切る前に、最低でも俺かルーチェのどちらかは命を落とすことになる。

 

「ギュルルルル!」

 

 暴風に対して一人残った俺へと、ポタルゲが鉤爪での攻撃を仕掛けてくる。

 重さに耐えられず盾が逸れたところに、至近距離より〈シルフカッター〉を叩き込まれた。

 

「ぐぁっ!」

 

 俺は鎧で受けることになり、後方へと飛ばされた。

 胸部に、鈍い痛みが走る。

 

 ポタルゲは、HP、防御力が高く、行動パターンも慎重で堅い。

 まるで奴の守りを崩せる気がしなかった。

 この状況を覆すためのピースが足りない。

 

「クソ……せめて〈死神の凶手〉があれば、まだ勝算があったのに」

 

 元々俺とルーチェはその〈技能の書(スキルブック)〉が欲しくてここへと訪れていたのだ。

 あのスキルツリーがあれば、ルーチェの攻撃面の性能が大幅に上がる。

 そうすれば短期決戦狙いで一気に仕掛けることができただろう。

 もしもグリムリーパーからドロップしていれば、ここまで苦しい戦いを強いられることはなかったはずだ。

 

「〈死神の凶手〉……?」

 

 イザベラが反応した。

 

「あ、あります! それでしたら、私が持っています!」

 

 スノウが叫んだ。

 

「なっ……!」

 

 確かに……スノウ達は、俺達より長く狩りをして回っていたのだ。

 恐らくは、昨日か一昨日より。

 その点を考えれば、彼女達がグリムリーパーより〈死神の凶手〉の〈技能の書(スキルブック)〉を入手していてもおかしくはなかった。

 

「頼む、それをルーチェへ渡してくれ! 金なら、相場の何倍でも後で払ってみせる!」

 

 俺はポタルゲの鉤爪を〈パリィ〉で死に物狂いに捌きながら、そう叫んだ。

 

「道化師の方……これを!」

 

 スノウは迷いなく〈魔法袋〉より一冊の本を取り出し、素早くルーチェへと投げた。

 ルーチェがその本を手で掴む。

 

 恐らくあれが〈死神の凶手〉の〈技能の書(スキルブック)〉なのだ。

 

「こ、これが、〈死神の凶手〉……! エ、エルマさん! あのあの、こっこれって、どうやって使ったら……!」

 

 ルーチェが〈技能の書(スキルブック)〉を手に、困惑したようにそう口にする。

 

「〈技能の書(スキルブック)〉にマナを込めるイメージだ! 〈攻撃力上昇〉を消してスキルツリーに加えたら、スキルポイントを全て振ってくれ!」

 

 ここに入る前のルーチェは【Lv:64】だった。

 恐らくあれから、レベル三つ、四つ程は上がっているはずだ。

 スキルポイントは【20】以上余っている。

 それだけあれば、充分〈死神の凶手〉の序盤のスキルを入手できる。

 

「は、はいっ!」

 

 ルーチェの手許が光る。

 そして同時に、彼女が手に持つ〈技能の書(スキルブック)〉が、光の粒となって消えていった。

 

 ルーチェが〈死神の凶手〉を手に入れた証である。

 いつかは絶対に手に入れたいと考えていたが、まさかこんな形で入手することになるとは思わなかった。

 

――――――――――――――――――――

 〈死神の凶手〉のスキルツリーを取得できる。

 研ぎ澄まされたその刃には死神が宿る。

 ただ一振りで命を奪う、絶死の凶刃。

 狙った獲物を決して逃がしはしない。

――――――――――――――――――――

 

 〈死神の凶手〉の〈技能の書(スキルブック)〉の説明文である。

 

 〈死神の凶手〉はクリティカル攻撃の強化を中心としたスキルツリーだ。

 普通に使っても強いが、安定性に欠くため採用率はさほど高くない。

 

 だが、桁外れに高い幸運力と、出目次第でクリティカルを確定させる〈ダイススラスト〉のスキルを有しているルーチェがこのスキルツリーを得れば、その意味は大きく変わる。

 

 俺はこの瞬間、既に勝利を確信していた。

 

「土壇場なのは不安だが、一気に決めるぞルーチェ!」

大ハズレだと追放された転生重騎士はゲーム知識で無双する
第十一話 打開策
0%
第107話