後日、正式に〈交易路の間引き〉の依頼を受けた俺とルーチェは、二人で都市のすぐ外にあるレイドの集合場所へと訪れていた。

 

 数多の馬の蹄が踏み締めた土は固まり、草花の生えない茶色の道が広がっている。

 レイドのためにギルド側が用意した馬車が三台、道の端には並んでいる。

 

 ここから交易路を移動して、道中で出てくる虫の魔物を討伐するのが依頼内容である。

 

 俺達以外に六人の冒険者が集まっていたが、全員、統一感のある恰好をしていた。

 青緑を基調とした色合いで統一されており、衣装の腰だったり帽子だったり、各々の位置に笛の紋章が入っている。

 全員、敵愾心を露にし、俺達の方を睨んでいる。

 

「どうやら当たりのようだな」

 

 連中がクラン〈魔銀(ミスリル)の笛〉らしい。

 頭目である銀面卿は不在のようだったが、それでも大きな収穫である。

 

「やっぱり紛れ込んだか、お前達のような空気の読めない輩が。〈夢の穴(ダンジョン)〉資源は美味いが、ギルドの権限が強い上に、気が利かない堅物連中ばかりなのがラコリナの厄介なところだ」

 

 カール頭で口髭のある男が、俺へと詰め寄ってきた。

 年齢は三十歳手前に見えた。

 

 真っ赤な細身の剣を腰に差している。

 武器からクラスの検討がついた。

 恐らく〈炎剣士〉だ。

 

 名の通り、炎を操りつつ、剣術で相手を翻弄するクラスだ。

 目立った強みはないがダメージが稼ぎやすく、中・近距離を臨機応変に切り替えて戦える他、メインのスキルツリーが優秀なので補佐や回復をビルドに組み込みやすい。

 なかなか渋いクラスだといえる。

 

 カール頭の後を追って、薄手の格好の銀髪の女が並ぶ。

 

「フラング様、他の冒険者の方と交流ができるのもレイドの楽しみでしょう。たとえそれが、使い物にならない溝鼠であっても、ね」

 

 どうやら彼女はクラス〈踊り子〉らしい。

 こちらを嘲弄するような、ニヤニヤとした笑みを浮かべていた。

 

 この二人はそれなりに装備が整っている。

 恐らくこの六人の中の代表のようなものなのだろう。

 

 そろそろ俺達もラコリナの冒険者間では名前が売れてきたのではないかと考えていたが、浸透するにはまだまだ活動期間が足りていないようだ。

 

「事前の打ち合わせか?」

 

「俺は〈魔銀(ミスリル)の笛〉のクラン長補佐のフラングだ。このレイドは我々で充分手が足りている。連携の邪魔だ。部外者が紛れ込む程、面倒なことはない。お帰りいただけるか?」

 

 口髭の男フラングは、蛇のような細い三白眼でジロリと俺を睨む。

 

「それは事前にギルドと交渉すべきことだ。俺達は正当な手続きを経て、既に装備を整え、準備を終えてここに参加している」

 

 フラングは顔を顰め、舌打ちを鳴らした。

 

「エ、エルマさん、敵に回しても仕方ないんじゃないですかあ……?」

 

 ルーチェが不安げに俺へと耳打ちした。

 

 ただ、今回の目的は〈魔銀(ミスリル)の笛〉の錬金術師との接触である。

 はいどうぞ、とは行かない以上、ある程度の対立は織り込み済みである。

 

 今回のレイドは連中を探り、相手の欲しているアイテムを先に回収して、あわよくば交渉に出るのが狙いである。

 元々、平気で汚い手に出てくるクランだということは噂で知っている。

 穏便に、とは言っていられない。

 

「レイド中は魔物の群れとの混戦になる……連携のできない冒険者が大怪我をしても、我々は責任を取れんぞ?」

 

 フラングはそう口にすると、魔法陣を展開し、手許に火球を浮かべた。

 脅しのつもりだろう。

 俺はスキルに驚き、大きく下がって息を呑んだ。

 

「こ、このスキル……!」

 

「どうかね? 今、このまま下がるつもりには……」

 

「炎剣士の専用スキルツリー〈猛火の剣客〉では、〈ファイアボール〉を習得できない。専用スキルツリーで高火力のスキルが一通り揃うのがクラスの強みなのに、何故わざわざ同属性の攻撃魔法のスキルツリーを……?」

 

 〈ファイアボール〉を取得しているということは、火魔法系統のスキルツリーを有している。

 だが、〈猛火の剣客〉には、刃に炎を纏って相手を叩き斬るスキルや、刃に纏った炎を飛ばすスキルが既に揃っているのだ。

 そちらの方がダメージ計算的にも炎剣士に合っている。

 属性が同じ分、弱点の補完等の役割もない。

 つまり、完全にスキルポイントの無駄なのだ。

 

 いや、しかし、効率的にラコリナで暗躍してきた上級クランの副長だ。

 何の理由もなくこんな構成にしているわけがない。

 しかし、だとしたら何故……?

 俺は、この世界の仕様を、何か見落としていたのか?

 

「ハ、三流冒険者め。〈上級火魔法〉には属性攻撃力を上げてくれる恩恵があるのだよ」

 

 フラングは、苛立ったように早口でそう言った。

 

「だ、だったら、初期スキルツリーの〈攻撃力上昇〉の方が、通常攻撃にも乗るし、炎剣士のスキルで参照される割合も大きいからマシなはずだが……。何故わざわざ高価な〈技能の書(スキルブック)〉を使って、そんなことを……?」

 

「…………」

 

 フラングは無表情で沈黙した。

 

「フッ、愚かな殿方ねぇ。フラング様はB級の中でも上位格の冒険者。そんな凡ミス、犯すわけがないでしょうに」

 

 フラングの傍らにいた踊り子の女が、俺を挑発した後、ちらりとフラングへと目線をやった。

 

「ねっ、フラング様」

 

 フラングは一度は弱めていた火球に魔力を込めて大きくし、鬼の形相で俺へと投げつけようとした。

 素早く踊り子の女が、彼の腕を抑えて制止する。

 

「こ、このクソガキ共、ぶっ殺してやる……!」

 

「フ、フラング様、落ち着いて……! 今ぶつけたら、さすがに言い訳が利きませんから! まだ都市のすぐ近くですから!」

 

 踊り子の女が、懸命にフラングへと訴える。

 遠巻きに見ていたクランの他の冒険者達も、慌ててフラングへと駆け寄っていく。

 

「……あんなちぐはぐなスキルツリーで、B級最上位格か。即ち地の実力が高いということ。炎剣士フラング、侮れないな」

 

 本人の技量に隙があったカロスとは対極だともいえる。

 

「このクソガキめがぁっ!」

 

 フラングが一層大きな怒声を上げる。

 

「エルマさん、もしかして煽ってません……?」

 

「素直に褒めたつもりなんだが」

 

 実力に依拠しないスキル頼みの不格好な戦い方は〈マジックワールド〉プレイヤーの間では軽蔑の対象であった。

 そのため尖った構成で実績を残すことは、賞賛の対象だったのだが……。

大ハズレだと追放された転生重騎士はゲーム知識で無双する
第六話 虫退治のレイド
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第142話