「オアアアアアアッ!」

 

 ミスリルゴーレムがルーチェを睨み、彼女へと掴み掛かろうと動き出した。

 〈ダイススラスト〉の大ダメージで、俺より彼女を警戒すべきだと踏んだらしい。

 

 ルーチェが狙われては敵わないが、無論その対策は考えてある。

 俺は素早くミスリルゴーレムの影を踏み、〈影踏み〉を発動した。

 

 ただ、ミスリルゴーレムと俺のステータス差が開きすぎているため、足がミスリルゴーレムに引き摺られる。

 俺は腰を落として地面に〈黒鋼ソード〉の刃を突き立て、強引にその場に留まった。

 

「よし、止まった……が」

 

 俺の〈影踏み〉を力技で振り切るのを諦めたミスリルゴーレムは、素早く俺へと振り返って突進してきた。

 

「俺ばかり注目されるのも、それはそれで厄介なんだよな。一難去ってまた一難だ」

 

 俺は〈影踏み〉を解除し、背後へと跳んだ。

 尻目に地面を確認するのも忘れない。

 ここは地面の凹凸が激しいため、後ろ跳びを繰り返していたら転倒しかねない。

 

 ミスリルゴーレムは両腕をぶん回し、壁を崩しながら追い掛けてくる。

 俺はすぐに距離を詰められ、俺の身体目掛けて大きな右腕が掴み掛かってきた。

 

 俺はその腕の一撃を盾の表面に滑らせて受け流し、辛うじて地面へ拳を突かせた。

 ミスリルゴーレムの身体が、大きく前のめりに傾いた。

 

「ここだ!」

 

 俺は〈影踏み〉を再発動し、ミスリルゴーレムの影を踏む。

 そのまま力いっぱい、地面に足を擦ってミスリルゴーレムの影を引いた。

 

 ミスリルゴーレムは殴打に特化した両腕にかなりの重量があり、姿勢によっては重心が不安定になる。

 大振りを外して重心が崩れた今は、体勢を崩す絶好の機会であった。

 元よりミスリルゴーレムのこの弱点を突くために、敢えてこの足場の悪いところまで誘導していたのだ。

 

 ミスリルゴーレムが前に倒れ、膝を突いた。

 一瞬の隙だ。

 だが、一撃入れるには充分過ぎる隙だった。

 

「行けっ、ルーチェ!」

 

「〈ダイススラスト〉!」

 

 ミスリルゴーレムの背を追って駆けてきたルーチェが、真っ直ぐにナイフの刺突技を放った。

 再びミスリルの大きな背にナイフが突き立てられる。

 宙に刻まれた数字は……【三】だった。

 

「う、うう……外しちゃいました……」

 

「オオオオオオオオオオッ!」

 

 ミスリルゴーレムが身体を捻り、背後のルーチェを振り飛ばす。

 ルーチェはその勢いを利用して跳び、壁を蹴りながら反転し、間合いを取ったところで素早くナイフを構え直す。

 

 外すのは仕方がない。

 連続で〈ダイススラスト〉の【六】が出るなんて、端から俺も期待していなかった。

 

 だが、ここからが正念場だ。

 ミスリルゴーレムが体勢を整えれば、もう二度と膝を突かせるような真似は成功しないだろう。

 そうなれば、次の一撃を入れる前に〈自動回復〉でHPを回復され、もう一度〈ダイススラスト〉を叩き込んでも倒しきれなくなる。

 そうなれば、俺達の勝算はほぼ潰えるといっていい。

 

 ルーチェがもう一発〈ダイススラスト〉の【六】を引くまで……死力を尽くして、ミスリルゴーレムを地面に釘付けにしておかなければならない。

 立て直されたらそこまでだ。

 

 かなり強引に攻める必要がある。

 ここは一発もらうのを覚悟して攻勢に出るべきだ。

 となると、攻撃を受けても崩れないように〈ライフシールド〉を張っておいた方がいい。

 

「〈ライフシールド〉!」

 

――――――――――――――――――――

〈ライフシールド〉【通常スキル】

 HPを最大値の20%支払って発動する。

 支払ったHPと同じ耐久値を持つシールドで全身を覆う。

――――――――――――――――――――

 

 俺の生命力が実体化し、俺の身体を光の膜のように覆う。

 

――――――――――――――――――――

【エルマ・エドヴァン】

クラス:重騎士

Lv :46

HP :47/110

MP :27/45

――――――――――――――――――――

 

 【HP:22】を支払い、〈ライフシールド〉を展開した。

 

 そのまま俺はミスリルゴーレムへと斬り掛かる。

 ミスリルゴーレムは腕を伸ばし、迎撃の構えに出る。

 俺はその前に出た腕を剣で殴って弾き、一気に距離を詰めた。

 

 ここは強引に攻撃し続ける。

 一撃もらっても立て直せるよう、〈ライフシールド〉がある。

 

 俺は再び〈影踏み〉を発動し、〈シールドバッシュ〉の体当たりを仕掛けた。

 〈ステータス〉負けの反動で、俺の身体が大きく背後へ弾き飛ばされる。

 

 俺は腰を落とし、地面から……ミスリルゴーレムの影から、足を離すまいと構えた。

 

 〈シールドバッシュ〉の勢いでミスリルゴーレムの影が引き伸ばされて張った。

 影に引っ張られて、ミスリルゴーレムの動きも静止する。

 俺側に引っ張られているため、背後から向かってくるルーチェの方を振り返れないでいる。

 

 かなり強引だが、〈シールドバッシュ〉で自分を吹き飛ばせば、〈影踏み〉でこういう使い方もできる。

 もっとも、相手とのステータス差を緻密に計算しなければ安定して使えないが。

 

 三度目の〈ダイススラスト〉をルーチェが放つ。

 だが、浮かび上がった数字は【四】だった。

 

「こんな窮地に限って、二度外すなんて……!」

 

 ルーチェが悔しげに零す。

 

「ルーチェ、どんどん行け!」

 

 俺も再度、ミスリルゴーレムへと飛び掛かっていった。

 影の張力を利用して勢いを持たせ、ミスリルゴーレムへと突進する。

 

 ミスリルゴーレムが両腕を俺へと構える。

 腕を不用意に伸ばしてこない。

 確実に俺を迎え撃つつもりらしい。

 

 俺が充分に接近したところで、ようやく右腕を俺へと繰り出してきた。

 俺はミスリルゴーレムの腕の逆側へ跳びながら、手の甲目掛けて剣を振るう。

 

「〈パリィ〉!」

 

 手が痺れる。

 剣越しに、奴の馬鹿力が伝わってきた。

 辛うじて成功した〈パリィ〉によって、奴の右拳が壁へと弾かれ、洞窟内を大きく揺らした。

 

 五分五分だったが、成功した……!

 だが、剣を握る指に、力が入らない。

 

 素早くミスリルゴーレムの左腕が俺へと伸びる。

 避けられない……!

 俺は盾を構え、身体を縮めた。

 

 ミスリルゴーレムの怪力が、俺の〈ライフシールド〉を呆気なく一撃で粉砕した。

 続いて俺の盾を殴打する。

 俺の身体は衝撃で宙に浮き、地面に身体を打ち付けることになった。

 

 本当に恐ろしい攻撃力だ。

 〈ライフシールド〉と盾の二重の緩衝材があって、それでようやく受けきることができた。

 

 ミスリルゴーレムも、明らかに俺の動きに対応してきている。

 無暗に腕を伸ばさなくなったのもそうだが、〈影踏み〉にも明らかに警戒意識を見せ始めていた。

 

 俺の後もどんどんなくなってきている。

 もうさっきまでのような戦法も、これ以上は通用しそうにない。

 

「今度こそ……ここで決めますっ! 〈ダイススラスト〉!」

 

 四度目の〈ダイススラスト〉が放たれる。

 ミスリルゴーレムに亀裂が走り、ついにその巨体が崩れ落ちた。

 ルーチェの手許に【六】が浮かんでいたのが目に映った。

 

【経験値を1343取得しました。】

【レベルが46から49へと上がりました。】

【スキルポイントを3取得しました。】

 

 ついにレアモンスター、ミスリルゴーレムを撃破した。

 

「よしっ! よくやった、ルーチェ!」

 

「よかったですぅ……。アタシもう、二回連続で外したときは、どうしてこんなときに限ってこうなるのかと……」

 

 ルーチェが深く安堵の息を吐き、床へと力なくしゃがみ込む。

 

「四回中二回【六】を引けるのは、普通に恵まれてるからな……?」

 

 俺もルーチェの幸運力があっても、運の偏り次第では五回、六回〈ダイススラスト〉を引いてもらうことになるだろうと覚悟していた。

 

 これでミスリルが手に入る上に……俺のレベルも、かなり上がってきた。

 スキルポイントにちょっと余裕ができてきた。

 

 そろそろ〈マジックワールド〉の重騎士らしい戦い方ができるようになってくる頃合いだ。

 爆発力のある〈燻り狂う牙〉を先に伸ばすか、不安定な〈燻り狂う牙〉を安定化させる〈重鎧の誓い〉を先に伸ばすのかは、なかなか悩み所だが。

大ハズレだと追放された転生重騎士はゲーム知識で無双する
第九話 あと一撃
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