無職転生 - 異世界行ったら本気だす -

第九十六話「披露宴・開催」

 数日後。

 ルーデウス邸・披露宴当日。

 

 日程は月休みの日で、時刻は昼にした。

 ジーナスには遠慮され、ゾルダートには会議が忙しいと断られた。

 二人共忙しいようだ。

 

 バーディガーディも忙しくて来ないかと思ったが、あの陛下も意外と暇らしく参加を表明。

 それ以外の11人も招待状を受け取った。

 

 そう、ナナホシも招待状を受け取ったのだ。

 

 

---

 

 

 早朝からシルフィが張り切っていた。

 

「こういうのは妻の役目なんだから、任せてよ!」

 

 と、早朝からあれこれと用意をしていた。

 俺の知らない間に、シルフィは料理なども習得していたらしい。

 人妻としてできる事は、だいたいリーリャに教わったのだとか。

 

 二階の空き部屋も、この日のために整えられた。

 といっても、簡素なベッドとクローゼット、テーブルとイス、水差しなんかが運び込まれただけだが。

 万が一具合の悪くなった人のためにだ。

 

 

 準備が着々と進む中、

 最初に現れたのは、リニアとプルセナだった。

 集合時間の二時間ほど前である。

 こいつらもしかして時間を間違えたんじゃないだろうか。

 

「あちしらの常識では、祝いの席には獲物を持って早めに来るもんニャよ」

「そうなの、一番で持って来たの。ボスへの忠義の証なの」

 

 彼女らは、巨大な猪を雪車(そり)で運んできていた。

 獣族の場合、婚姻の席に出席する時には、朝から狩猟に出かけ、そこで取れた食材を持ってくるのが当たり前らしい。

 早い時間に行って取って戻ってくる事こそが、相手への敬意の尺度になるらしい。

 

 取れなかったらどうするのかと聞いてみると、

 その場合は市場で買ってくるつもりだったとか。

 そんなもんか。

 

 服装は魔法大学の制服である。

 これは俺が決めた。

 招待客は貧富の差が激しいし、あまり気合の入った格好をされても、民族色で浮いてしまう。

 幸いにして、制服なら参加者全員が持っていた。

 あ、いや、ジュリだけは持ってなかったので、新しく買ったが。

 

 

 二人には会食が始まるまでの間、リビングでくつろいでもらう。

 もてなしは夫の仕事だ。

 

 二人は朝から外にいて体が冷えていたらしい。

 暖炉の前の一番暖かいソファで、リニアがプルセナに抱きついて丸くなっていた。

 

「それにしても、まさかボスとフィッツが結婚とはニャぁ……」

「フィッツはやっぱり女だったの。臭いでそうじゃないかとは思ってたの」

「そうニャ。でもこれで納得ニャ」

 

 二人はそんな事を言いつつ、互いの毛づくろいをしていた。

 ちなみに、シルフィ=フィッツということは、招待客には知らせてある。

 一応、あまり他言はしないようにと言ってはおいたが、ある程度は知られてしまっても仕方ないだろう。

 

「何が納得なんですか?」

 

 温かいお茶を出しつつ、二人にたずねてみる。

 

「ボスは小さいのが好みなの」

「あれだけ性欲の匂いをまき散らしながらあちしらに襲いかかって来なかったのも、好みの問題だったのニャ」

 

 失礼な奴らだ。

 まるで俺が女と見ればみさかいなく襲いかかる変態のようではないか。

 まったく失礼な奴らだ、揉みしだいてやろうか。

 

 などと考えつつもおくびには出さない。

 つい昨日、シルフィとしっぽりさせてもらった。

 欲望は全てシルフィの中に置いてきた。

 今日の俺は賢者である。

 

 

 二番目にやってきたのは、意外にもザノバとジュリだった。

 開始の一時間ほど前。

 

「失礼。途中でいい人形がありましてな、つい目を奪われてしまいました。

 ジュリがいなければ危ない所でした」

 

 そう言うザノバ。

 ジュリは魔法大学の制服をきている。

 小人族用のサイズだ。

 ちんまりとしていて、お人形のようである。

 

「ぐらんどますた、ほんじつは、おまねき、ありがとうございます」

 

 そう言って、ジュリはスカートの端を持ち上げ、丁寧に挨拶してくる。

 可愛いなぁ。

 チラとザノバを見ると、彼もまた頭を下げていた。

 そのまま、かしこまった声音で言う。

 

「師ルーデウス・グレイラット。祝賀の招きに感謝を」

 

 おお。

 ザノバがまともだ。

 そうだよ。こいつ、挨拶とか出来ないわけじゃないんだよな。

 よし、俺もここは習って真面目にいくか。

 

「ザノバ殿下、本日は……」

「ああ、師匠。余にかしこまる必要はありませぬ。所詮は形式なので。

 師匠はいつもどおり、ぞんざいに扱っていただければ」

「…………そっか、じゃあっちの部屋で休んでろ」

「ははは、了解しました。さ、ジュリ、参るぞ」

 

 なんだよ、真面目にやろうとして損したぜ。

 と、思いつつも、茶の用意はしておく。

 扱いがぞんざいでも、俺は主人、奴は客だからな。

 

 なんて考えていると、リビングからリニア、プルセナの自慢気な声が聞こえてきた。

 どうやら、一番乗りをした事に自慢しているらしい。

 少し遅れてザノバの悔しそうな声も聞こえてきた。

 楽しそうで何よりだ。

 

 

 三番目は、アリエルご一行だった。

 開始三十分前といった所か。

 

 アリエルとルーク、そしてどこかで見たことのある女生徒が二人。

 彼女らがアリエル王女の従者か。

 シルフィの戦友。無下には扱うまい。

 

「本日はお招きいただきありがとうございます。

 何分庶民の作法には疎いゆえ、少々の無作法はお許しください」

 

 そう言って頭を下げたのはアリエルだった。

 てっきり、頭を下げるのはルークか従者のどちらかがと思ったが、

 こちらに合わせたのかもしれない。

 

「多数の種族が集まっていますので、作法の事は気になさらないでください。むしろ、こちらが失礼が無いか不安で……」

「感謝を。あなた達」

 

 アリエルが目配せをすると、従者の二人が前に出る。

 

「アリエル様の従者、エルモア・ブルーウルフともうします」

「同じく、クリーネ・エルロンドともうします」

 

 名前はともかく苗字は覚えやすいな。

 蒼き狼と伝説の騎士か。

 

 俺の名前は灰色鼠。

 アスラ王国の貴族は、色と動物の組み合わせた名前が多いのだろうか。

 だとすると、白き牝鹿もいそうだ。

 その場合はホワイト……鹿ってなんていうんだっけか。

 馬はホースで馬鹿がフール。

 てことは間を取ってホールって所か。

 白い明日が待ってるぜ。

 

「こちらをお受け取りください」

 

 二人は手に持ったものを、俺へと差し出してきた。

 高価な布に包まれた箱である。

 

「結婚祝いの贈り物です」

「これはどうもご丁寧に。ありがとうございます」

「これからの結婚生活に役立つものを選びました。中をお確かめください」

 

 促され、中を見て、絶句した。

 ピンク色の液体の詰まった小瓶と、木製の棒だった。

 直接的な言い方をすると、媚薬と張形(ディルド)だった。

 なんだこれ……。

 

「グレイラット家の男が女性を満足させられないとは思いませんが、

 もし必要とあらば、お使いください」

「は、はい」

 

 アリエルは平然としていた。

 これが普通なのだろうか。

 ルークも、他二名も平然としている。

 文化が違う……。

 

 四人をリビングへと案内する。

 すると、リニアとプルセナがピリッとした空気を放った。

 

「……」

 

 まさか喧嘩したりはしないだろうな。

 いくら獣族ったって、祝いの席で雰囲気ぶち壊しにしたりはしないだろうな。

 そういう目線を送ると、二人も察してくれたらしい。

 

「お久しぶりです、リニアさん、プルセナさん。その説はご迷惑をかけました」

「お久しぶりですニャ」

「迷惑はお互い様なの」

 

 アリエルがふんわりとした声で、彼女らの近くに腰掛ける。

 残り三人は立ったままだ。

 一応、何かあったら止めるようにザノバにも目配せしておく。

 ザノバはうむと頷くと、何か勘違いしたらしく、立ち上がってアリエルに頭を下げた。

 

「お初にお目に掛かりますアリエル姫。シーローン王国第三王子にして、師ルーデウス・グレイラットの愛弟子、ザノバ・シーローンと申します」

「これはザノバ王子。ご健勝なようで何よりです。入学してすぐにご挨拶に伺ったのですが、お忘れになられてしまいましたか?」

「む。これは失礼した。なにぶん、余は怪力の神子、力ばかりで知恵が回りかねておりますゆえ……」

「あら、土魔術の授業では高い成績を残していると聞き及んでおりますよ」

「全ては師の教えの賜物ゆえ……」

 

 ザノバの社交性の高さにちょっと驚きつつも、俺は茶を用意した。

 

 

 開始ギリギリ、10分前になって現れたのは、クリフとエリナリーゼ。

 そしてナナホシだった。

 珍しい取り合わせである。

 ナナホシは一人で来ると思っていた。

 

「門の前でまごまごしてたのよ。知り合いですわよね?」

「ええ、もちろん。彼女がサイレント・セブンスターさんです」

 

 そう言うと、クリフがギョっとした顔で彼女を見た。

 どうやら、クリフは彼女のことを見たことがなかったらしい。

 

「そ、そうか、君があのサイレントか。ふん、僕がクリフだ。名前ぐらいは聞いたことあるだろう?」

「……ええ、聞いたことあるわ。名前だけはね。凄いんですってね。サイレントよ」

 

 わざとらしい棒読み。

 凄まじい知ったかぶり感。

 多分、クリフの事なんてまったく知らないんだろう。

 クリフが機嫌良さそうだから俺は何も言わんけど。

 

「お初にお目に掛かります。エリナリーゼ・ドラゴンロードですわ。素敵な仮面ですわね」

「どうも。貴方の髪型も素敵ですね」

 

 ナナホシは抑揚のない声で返事をしている。

 彼女のやり取りは見ているとヒヤヒヤする。

 とはいえ、ナナホシも余計な面倒には巻き込まれたくないし、毒を吐いたりはしないだろう。

 

 正直、ナナホシが来るとは思っていなかった。

 一応招待状は渡し、彼女もそれを受け取った。

 だが、その時点では行くとは言わなかったのだ。

 「結婚なんて……貴方、本気でこっちで生きていくつもりなのね」なんて感情のない声で言ってただけだ。

 

 一応、小声で話しかけてみる。

 

『珍しいな、あの部屋から出てくるなんて』

『……あなたが誘ったんでしょ?』

『そうだな。まあ……今日はゆっくりしていってくれ。ポテチとかも用意したからな』

『ポテチ? ポテトチップスを作ったの?』

『お前の料理のおかげで食用油が簡単に手に入るからな』

『凄いわね』

『凄くはないだろ』

 

 芋を薄く切って油で揚げて塩をまぶすだけだ。

 油も塩も芋も違うから、生前に食ってた味とは、また少し違うが。

 

「それでは、失礼しますわね」

 

 エリナリーゼはクリフとナナホシを引き連れて、リビングへと突入していく。

 その足取りに迷いは無い。

 冒険者たる彼女は身分的にはジュリに次ぐ下から二番目だ。

 だが、そういうことを気にするタイプではないらしい。

 種族が違えば身分なんてあってないようなものだしな。

 

 リビングに入った二人は、いつもどおりだった。

 クリフがデカイ口を叩いて空気を悪くした所を、エリナリーゼがフォローする。

 クリフも悪気があるわけじゃないんだが、水を刺すようなことをよく言ってしまう。

 

 ナナホシは基本的に黙っているが、話しかけられれば返事はしている。

 会話もしている。

 コミュニケーション障害の引きこもりだと思っていたが、そんな事は無いらしい。

 

 

 しばらくして、準備が完了したとシルフィが報告に来た。

 

 さて、あとはバーディガーディだけか。

 あまり遅くなると料理が冷めてしまうな。

 と、懸念していた所でエリナリーゼが口を開いた。

 

「バーディガーディが時間通りに来るはずがありませんわ。

 千年単位で生きている奴は時間にルーズですのよ。

 一ヶ月後ぐらいに来ると思って置いたほうがいいですわね」

 

 という言葉で、時間通り会食を開始する事にした。

 悪いなバーディ。

 

 

---

 

 

 会場は立食形式にした。

 

 席順で悩んだ挙句、イスを取っ払ったのだ。

 幸い、テーブルをおいても歩き回れる程度には広い部屋だ。

 疲れてもいいように、端の方にはイスも用意しておいた。

 料理は立食で食べやすいものをチョイスしたつもりだ。

 

 とりあえず、全員に酒のコップを配る。

 ナナホシは酒を辞退したため、果実のジュースである。

 

 乾杯の音頭は俺が取る事になっている。

 

 シルフィと並んで前に立つ。

 視線が集まる。

 11人分の視線。

 決して嫌な感じのする視線じゃない。

 でもなんか緊張するな。

 カンペは用意してあるんだが。

 

 と、シルフィにキュっと手を握られた。

 顔を見ると、はにかんだ顔で笑いかけられた。

 頑張って、と小声で言われる。

 今すぐ寝室に連れ込みたい。

 

「あら、ルーデウスったら顔が真っ赤ですわ。くすくす」

「リーゼ、静かにしろ」

 

 エリナリーゼが笑い、珍しくクリフが空気を読んだ。

 よし。

 

「こほん。

 本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。

 改めて宣言致しますが、私ルーデウスと、こちら……」

「フハハハハ! そこで我輩がババンと登場である!」

 

 心臓が口から飛び出た。

 

 振り返ると奴がいた。

 黒いボディに高い背。

 六本の腕を、窮屈そうに制服に押し込んで。

 不死身の魔王バーディガーディがバーンと出てきたのだ。

 厨房へと続く扉から。

 

「……!」

 

 誰もが絶句した。

 その威風堂々たる態度に。

 クリフですら言葉を飲み込んだ。

 

 俺も、何を言っていいかわからなかった。

 あのタイミングでは、まるで俺とバーディガーディが結婚するみたいじゃないか。

 お前の妻はあれだろ、あの歯磨き粉みたいな名前の頭の悪い子だろ?

 

「バーディガーディ、遅刻ですわよ」

 

 ツッコミを入れたのはエリナリーゼだった。

 しかしバーディガーディはどこ吹く風である。

 

「ふむ。確かに遅刻であるな。しかし、我が種族においては、王族は会合の際には度肝を抜くタイミングで登場して場をかき乱すべし、と決まっておるのだ」

「嘘だろ」

「嘘ではない。キシリカが気まぐれで決めた事ゆえ、我輩も馬鹿馬鹿しいと思っておるがな!」

 

 馬鹿馬鹿しいのにやるのか。

 なんて適当な奴らだ。

 だから人族に何度も滅ぼされるんだよ。

 

「貴様のためにわざわざ一肌脱いで、裏口へと回りこみ、後ろから出る手間を掛けてやったのだ。感謝するがいい! フハハハハ!」

 

 わざわざ回り込んだのか。

 おのれ……おのれ……。

 いや、落ち着け、バーディガーディはこういう奴だ。わかってたろ?

 

「ハハハ、なるほど、ありがとうございます」

「礼には及ばぬ。さぁ、我輩が前で好きなだけ結婚するといい。魔王の御前で結婚式など、滅多にやれぬぞ。我輩はそういったサービスはやっておらぬからな!」

 

 バーディガーディはそう言うと、どっかりと地面に座った。

 一応イスとか用意した方がよかったかもしれんが。

 魔族はわりと床に座る事多いから、問題ないか。

 

「では、気を取り直して……」

 

 こほん、と咳払い。

 

「本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。

 改めて宣言致しますが、私ルーデウスと、こちらシルフィエットは結婚します。

 まだ互いに若輩ゆえ、至らぬ点もあるかと思いますが、そこは助けあって、なんとかしていきたいと考えています。

 えー、ここにいる12人は、この数年で、私達が特に親しくさせてもらった方々です。

 出会って日の浅い方もおりますが、不思議と気の合うあなた方を、私は友だと思っています。

 困った際には、私が友として力になります。

 もし互いに争った時には、私たちの顔を思い出し、顔を立てて水にでも流してくださればと思います……えーと」

 

 いかんな、堅苦しすぎただろうか。

 皆様微妙な顔をしている。

 言葉を間違えただろうか。

 と、ポンとバーディガーディに肩を叩かれた。

 

「他人行儀な言葉はやめるがよい。

 貴様らは愛しあって、それをここにいる全員に認めてもらいたいのであろう?」

 

 おお。

 そうだそうだ、その通りだ。

 よし。

 

「まあ、なんだ。

 俺は、シルフィとやっていく。

 何かあったら力になってくれ。よろしく」

「よし、若き二人の行く末に、乾杯である!」

「乾杯!」

 

 バーディガーディがいつしか持っていた酒盃を持ち上げた。

 それに合わせ、全員が酒盃を持ち上げる。

 酒が少しこぼれ、会食が始まった。

 

 

---

 

 

 プルセナが真っ先に肉に手を伸ばした。

 先ほどから湯気を立てている、猪肉である。

 自分の取ってきた獲物を最初に食べるのが獣族のしきたりなのだろうか。

 いや違う。

 リニアは暖炉の前を陣取り、唐揚げもどきこと、フライドチキンをかじっている。

 

 ナナホシはポテトチップスを皿ごと取ると、部屋の端に引っ込んでポリポリやり始めた。

 ジュリがいきなりその隣に座った。

 ぎょっとするナナホシ。ジュリはお構いなくポテチを食べ始めた。

 

 先日、ポテチは味見役としてジュリにも食べてもらった。

 その時から狙っていたのだろう。

 ナナホシとジュリ。

 面白い空気が流れている。

 

 その空気に誘われて、バーディガーディが寄っていった。

 ナナホシが慌ててポケットから指輪を取り出している。

 馬鹿なナナホシ。

 誰にも関わりたくないと言いつつ、食い意地を張るからだ。

 

 ジュリはいいとして、ザノバはチラチラとこちらを見ている。

 何を躊躇っているんだ、と思ったが、どうやらアリエルが動くのを待っているらしい。

 

 アリエルが三人を引き連れ、俺とシルフィの所にやってきた。

 

「シルフィ、おめでとう」

「アリエル様……ありがとうございます」

 

 シルフィはいつものはにかんだ笑みで、アリエルに頭を下げた。

 

「彼とこの家は、シルフィの理想とくらべてどうですか」

「なんか、理想より凄いです。この家、お風呂もあるんですよ」

「おや、個人でお風呂を持つなんて、アスラでも一握りですのに、羨ましいですね。

 シルフィ、なんだったら、一年ぐらい、護衛をお休みしてもいいのですよ?」

「そ、それは、その、子供が出来た時で」

 

 アリエルはクスクスと笑っていた。

 その後、ルークと従者二人も、シルフィとあれこれ話していた。

 従者は今日名前を知った程度だが、シルフィとは深い絆があるらしい。

 親しそうで、青狼の子は涙ぐんでいた。

 なんていうか、高校の陸上部のお別れ会、みたいなイメージだ。

 

 と、ルークが俺の所にやってきた。

 

「まあ、まだわだかまりがあるとは思うが、よろしくやろうじゃないか……」

 

 そう言って、手を差し伸べてくる。

 わだかまりとか言われても、俺にはそんなもんは全然無いんだが。

 まあ、向こうがよろしくと言っているなら、俺もやぶさかではない。

 

「ああ、よろしく、ルーク……先輩」

「シルフィを、頼む」

 

 ルークは短くそう言って、手を離した。

 むしろ、わだかまりがあるのはルークのように思えた。

 なんだろうな、嫉妬とはちょっと違う気がするが。

 

 

 アリエルが去った後、ザノバがやってきた。

 一応、序列とか気にしてるんだろうか。

 王族だし、その辺はしっかりしてるのかもしれない。

 

「改めまして、師匠。おめでとうございます」

「ありがとうザノバ」

 

 ザノバはシルフィを向いた。

 そして、頭を下げた。

 

「奥方様。正直、男だと思っておりました。

 師匠の伴侶を男と見間違うなど……無礼をお許しください」

 

 シルフィは慌てて手を振った。

 

「あ、いえ、頭を上げてください。王族の方が、いけません。ボクなんかに」

「なんかとは、余の尊敬する師匠の奥方。言うなれば、神の次に尊い方でございます」

「ルディだって間違えてたんだから、しょうがないです、よ?」

 

 だよね、と俺に振ってくる。

 恥ずかしながら、俺もシルフィを男と間違えていた。

 性欲がなかったからに違いないのだ。

 とりあえず俺は、そうなのだと頷いておいた。

 

 

 ザノバが移動した後、リニアとプルセナがやってきた。

 

「人族は飯食ってる最中に挨拶するのが礼儀ニャのか?」

「お行儀が悪いの」

 

 と、それだけだった。

 特に祝辞とかは無い。

 こいつらの結婚式の時には、獣族のやり方をきちんと聞いておく事にしよう。

 

「でも、フィッツとボスが結婚なら、納得ニャ。強い者同士がくっつくのはいいことニャ」

「そうなの。強い子供が生まれれば一族安泰なの」

 

 飯の最中に赤裸々な会話をするのはお行儀が悪いと思うの。

 

 

 二人の次は、ナナホシだった。

 どうやら、バーディガーディから逃げてきたらしい。

 何をされたのか、髪が乱れている。

 バーディガーディはと見ると、ジュリを肩車して騒いでいた。

 

「……おめでとう」

「ありがとう」

 

 ナナホシは短くそう言って、立ち去ろうとする。

 と、それをシルフィが呼び止めた。

 

「あの、ナナホシさん、一つ聞いていい?」

「何かしら」

「前に、ルディとナナホシさんが同郷って言ってたよね、あれって、どういう意味?

 えっと、ナナホシさんは、別の世界から来た……ん、だよね?」

 

 シルフィは、後半は小声になっていた。

 

 ナナホシは、俺を見た。

 どうするの、と言いたげな目だ。

 俺は別にどっちでもよかった。

 シルフィに隠し事をするつもりはないが……。

 しかし、知られると、変な顔をされたりするかもしれない。

 

「……言語を扱えたから、勘違いしただけよ」

 

 ナナホシは言わなかった。

 何も。

 

 

 最後に来たのは、クリフとエリナリーゼだった。

 クリフは、俺達を並べると、片手で十字のようなものを切って、簡単な祝詞を述べた。

 

「君たちはミリス教徒じゃないが、僕にできる祝福はこれだけだ」

 

 気持ちだけでも頂いておくとしよう。

 うちの神は寛大だから怒らないはずだ。

 元々、俺は日本人、クリスマスを祝うけどミサは行わなかったりするのは日常茶飯事。

 ミ○エルだのガ○リエルだのといった名前は大好きなのに、原典を読んだことはありませんって奴が大半な人種だ。

 今は信じる神があるが、他の宗派の祝福を受けても気にはならない。

 

「ルーデウス。よかったですわね。治って」

 

 エリナリーゼがちょっと拗ねたような表情でいってきた。

 そう、彼女には、今の今まで、ED治療完了の報告をしていなかった。

 

「もう少し、早く報告してくれてもよろしかったのですわよ?」

「報告したら、「本当かどうか確かめてさしあげますわ」とか言って襲ったでしょう?」

「まさか。前にも言ったでしょう。わたくし、パウロの娘になるつもりはございませんのよ」

 

 そうか。

 なら、もっと早く言っておいた方がよかったかもしれない。

 この中では、エリナリーゼが一番付き合いが長いからな。

 といっても、せいぜい半年ぐらいプラスされるだけだが。

 

「まあ、でももし、クリフもシルフィもいなければ、一度ぐらいと思っていたかもしれませんわね」

「俺も、シルフィがいなければ、一度ぐらいは、と思っていたかもしれません」

「それはもったいない事をしましたわね。まあ、こうなった以上、わたくしとは縁がなかったということで、普通に友人として付き合いましょう」

「ええ、これからもよろしくおねがいします」

 

 エリナリーゼはシルフィに向き直る。

 彼女は、優しげな表情でシルフィに話しかける。

 

「シルフィエットさん。おめでとうございます。

 貴方の幸福を心より……こころより……おいわ……いわ……」

 

 エリナリーゼの目から、ボロボロと涙が零れ落ち始めた。

 彼女は、シルフィを見下ろしたまま、ひっくと喉を鳴らした。

 

 ギョっとした。

 彼女が唐突に泣きだした理由が、わからなかった。

 

 エリナリーゼは震える手で、シルフィの頬を触った。

 足が震え、膝から崩れ落ちた。

 顔をくしゃくしゃにして、ただただ、シルフィの顔をみている。

 

「ご、ごめんなさい。わたくしとした事が……」

 

 シルフィもさぞ驚いている。

 ……と、思ったが、そんなことはなかった。

 きょとんとはしていたが、驚いた感じはなかった。

 

「あの、前々から聞こうと思ってたんですけど……もしかしてエリナリーゼさんって、ボクのおばあちゃん、ですか?」

「……!」

 

 ギョっとしたのは、何も俺だけではなかった。

 クリフも、そしてエリナリーゼもまた、驚いていた。

 

「お父さんが言ってました。ボクのおばあちゃんは、ルディのお父さんの仲間だったって」

 

 そんな事を言ってたのか。

 いや、でも、パウロとロールズで、そういう繋がりがあるのはわからないでもないな。

 ロールズとは、村の見張りの最中に仲良くなったと言っていたが……。

 話していくうちに実はエリナリーゼ繋がりでした、なんて事があったかもしれない。

 

 世界は狭い。

 そういえば、シルフィの作ってくれた木彫りのペンダントと、エリナリーゼの剣の柄のペンダントも同じものだったな。

 言われてみると、顔立ちも似ている。

 

「エリナリーゼさん、やっぱり、そうなんですか?」

「ち、違いますわ。あなたのおばあさまが、こんな……」

「お父さん、言ってました。おばあちゃんのせいで大森林を追われたって、お母さんとの結婚も反対されたって」

「……っ!」

「そのことで落ち込んでたから、もし会っても自分の正体は明かさないかもしれないって」

 

 エリナリーゼとロールズにそんな過去が。

 いやでも、反対される理由はわかる気がする。

 俺もクリフにエリナリーゼを紹介してくれと言われた時にだいぶ迷ったぐらいだ。

 自分の娘が、そんな女の息子と、となれば反対する親もいるだろう。

 

「それは……うっ……うっ……」

 

 エリナリーゼは嗚咽を上げて泣いた。

 何かを口にしようとしているが、言葉にならないようだ。

 シルフィも、自分が悪いことを言ったのかと、少々オロオロとし始めた。

 

「クリフ先輩」

 

 俺はクリフに声を掛ける。

 クリフもまた、目を白黒させていた。

 

「な、なんだ?」

「エリナリーゼさんを二階の適当な部屋で休ませてあげてください」

「そ、そうだな。わ、わかった」

「シルフィも、その話はあとで、落ち着いてからでいいか?」

「は、はい」

 

 エリナリーゼはクリフに手を引かれ、怯えた目で俺を見た。

 

「る、ルーデウス、わ、わたくしは、こんなですけど、その、ロールズは普通の子ですのよ。もちろん、その子供のシルフィも、だから……」

 

 だからなんだ。偏見の目で見るなってことか。

 信用されてない。

 まあ、ここ最近エリナリーゼを避けてたからな。

 その辺で、ちょっと色々誤解が積み重なってしまったのかもしれない。

 俺はエリナリーゼの耳元に、口を寄せた。

 

「心配しないでください。エリナリーゼさんが原因でシルフィと別れたりはしませんから」

「でも」

「そんな事より、大嫌いなパウロと親戚になる事を心配した方がいいんじゃないですか?」

「…………ふっ、ルーデウス。あなた、こんな時に面白い事を言いますのね」

 

 エリナリーゼは弱々しくも笑った。

 ひとまずは安心しておこう。

 とにかく、もう少し落ち着いた方がいいだろう。

 

「そのことに関しては、後でゆっくり、シルフィと二人で話してください」

「ええ、お気遣い、感謝いたしますわ」

 

 エリナリーゼはクリフに連れられて、退出した。

 クリフ、うまくやってくれよ……。

 

 

---

 

 

 バーディガーディは挨拶には来なかった。

 部屋の端を陣取り、フハハハハと笑いながら、部屋を明るい雰囲気にしていた。

 ありがたい存在である。